「今からこの場に豆を撒きます!大人しくしやがれこの野郎!!」
部活後僕達が部室で着替えていると、そんな事はお構いなしにが勢い良く部屋に入ってきた。
呆気に取られている僕達の中で、最初に反応したのはやはりというか、ミクスドのパートナーを務める高槻だった。
「………それは新手のテロ予告か何かか?」
「あははは!高槻相変わらずガリガリだねぇ!!アバラ!アバラ出ておぼっふ」
高槻のビンタがの左頬をまともに捉えた。
グーじゃなかっただけまだ良心的といえなくもないが、はその場にばったりと倒れた。
そこで僕は慌てて止めに入る。
「た、高槻!いくらにイラッとしたからって殴っちゃ駄目だよ!!」
「ムカつくんだよ……部活で疲れた身体にはこいつの無駄に高いテンションが気に障るんだよマジで………」
「それでも一応生物学上は女の子だから!、大丈夫!?」
「私を呼んだかね!」
「復活早っ!!」
はかっこよく飛び上がったかと思うと、その場でよく分からない決めポーズをした。
その手には落花生の入った枡が入っていた。
「にしても……何でいきなり豆まきなんて言い出したんだにゃ」
「わかっとらんなエージ!今日は何月何日だ!!」
「え……2月…3日?あ……」
「そう、今日は節分!と言う訳でこの場に潜む不浄な輩を成敗する為に豆を撒こうではないか!!」
「今現在この場にいる中で最も不浄で不健全なのは間違いなくお前だけどな」
高槻のツッコミにその場にいた全員が頷いた。
うん、まあ。当たり前のように着替え途中の更衣室に入ってきてるし。
「……でも、何で落花生なんすか?」
着替えを早々に終えた越前が、素朴な疑問を口にした。
「え?何でって?」
「いや…俺もしばらくアメリカにいたからよく分からないんすけど、普通こういう時って炒り豆とかじゃないんすか」
「そうなん?うちは昔っから豆まきと言えば落花生だったけど」
「道民かよ」
※北海道では節分に何故か落花生を撒きます。
「でもまあここは東京だから東京のルールに従おうかね。よいしょっ」
はいつの間に仕込んでいたのか、部室備え付けのベンチの下からでかい袋を取り出した。
バリバリとそれを破っていくと、案の定大量の炒り豆が出てきた。
「……買い込みすぎじゃないか?その金をどっから捻出したんだ」
「男子テニス部の部費」
が即答したのとほぼ同時に、手塚の額に青筋が浮いた。
「と、とにかく買っちゃったものは有効活用するべきだろ!ほら、さっさと始めよう!」
「そうだよそうだよ!ほら、鬼の面もあるよ!」
大石が慌ててフォローに入ったのを機に、僕たちは着替えを手早く終えると豆まきをする事になった。
「、鬼の面はいくつあるの?」
「ふたつ。豆買ったときについてきたー」
「て事は…この中の2人が鬼?」
「よっしゃ、ジャンケンで決めよー!」
全力の笑顔でそう言うと、は手を組んでジャンケンの体勢に入った。
「って、ちょっと待って下さい先輩」
「ん、なんだね桃。まさか始める前から鬼が嫌だとか言うなよ。だからジャンケンで決めんだからね!」
が不満げにそう言うと桃は呆れたような表情になり、越前はそんなの肩を掴んだ。
「まさか先輩、ジャンケンに負けたら鬼やるつもりっすか」
「え、何で。なんかおかしかった?」
「いや……普通そういう役目って男がやるもんじゃないんすか。豆とはいえ当たったら痛いだろうし」
越前の言葉に、桃が頷いて同意した。
はぱちりと二、三度瞬きをしてからようやく意味を理解した。
「あのねぇ……こんな時ばっかり女扱いすんのもどうかと思うよ。今まで散々同じ扱いされてきてんのに」
「いや、でも…」
「いいから!ほらいくよ!じゃーんけーん」
「ぽんっ!」
「よっしゃ、豆撒くぞ!全力で来いっ!!」
ジャンケンに負けたのは、やる気満々なと、今にも堪忍袋の緒が切れそうな手塚だった。
自分の頭に鬼のお面を被せた後に、思いっきり背伸びをして手塚の頭にも鬼のお面を乗せる。
「いや……やっぱり先輩に豆は投げられないっす」
「まだそんな事言うのか!差別だ!」
「せめて炒り豆じゃなくてもう少し柔らかい物なら良かったんすけど……煮豆とか」
「いや、投げられる方から言わせればそれはむしろ苦痛だ。精神的に。そんなべちゃべちゃしたのやだ」
越前なりの気遣いなのかもしれないが確かにそれは嫌だ。
「とにかくぱっと投げなさいぱっと!ほら桃!」
「えっ、俺!?はいはい……えっと、鬼は外―!」
桃が手にした豆をパラパラとに投げた。それは投げたというより撒いたという方が正しい程、優しく投げられた。
はそれを見て眉間に皺を寄せ、手にした落花生を思いっきり桃に投げつけた。
「痛−!!」
「なんっじゃあそのしょぼくれた投げ方はぁ!本気で来んか本気でぇ!!」
落花生の殻が割れんばかりの勢いで桃に投げつけたかと思うと、今度はパチンコで炒り豆をぶつけ出した。
「!それは痛い!いくらなんでも可哀想だよ!!」
「やかましいわぁ!そんな腑抜けた投げ方をする奴こそ不浄なもんに取り付かれてるんじゃあ!豆ぶつけて浄化したるわぁ!!」
「豆ぶつけて浄化って何その危険思想!!」
鬼役なのに豆をぶつけ返すを慌てて止めている横では、もう一つの戦いが始まろうとしていた。
「……まったく、珍しく真面目に行事に取り組むものだと思っていたら…案の定こうなったか」
「まあ、賑やかでいいじゃないか。鬼だってこんな賑やかな所からは逃げて行くだろ」
「………しかし、物事にはやはり決まりというものがあr」
どざー、という何かが流れる音。
大量の豆を袋ごと思い切り手塚の頭に浴びせたのは、ベンチに土足で上がっている高槻だった。
「鬼は外―」
「た、高槻!」
「なんだよ。手から投げなきゃいけないなんていうルールは無いだろ。今こいつは鬼役なんだから豆を浴びるのが仕事だ」
「だからといってこんな大量に投げなくてもいいだろ!手塚、大丈夫か!?」
ぱらぱらと残りの豆が落ちた直後、今まで我慢していた手塚の堪忍袋の尾が完全に切れた。
「高槻!お前はいつも俺の邪魔ばかりするが何が気に食わない!!」
「るっせーなインテリメガネ!!何もかもだよ!俺より身長高いし!体格良いしテニス強いし何だよお前!あ………」
「…た、高槻?どうしたんだ?」
大石がキリキリと痛む胃を抑えながら、恐る恐る高槻に聞いた。
すると高槻は、この上なく爽やかな笑みを浮かべこう言った。
「悪い悪い、なんだかんだ言ってこのサイトでは俺の方が人気なんだよな。オリキャラに負ける既存キャラっていうのもなんか悲しいなって思って」
その時、確実に部室の気温が下がった。
「いやー、楽しかった!」
満足げに笑うの横には、疲れ果てた部員たちが転がっていた。
特に手塚と高槻は延々と二人で豆のぶつけ合いをしていたので、体力も完全に無くなったようだ。
「にしても……何でいきなり豆まきをしようと思ったの?」
「いやー、だって2月って普通は3年引退してるでしょ?だから本編ではやれないだろうし、折角だから」
なんか2次元の人間が言っちゃいけない単語が当たり前のようにポロリと出てきたけど、がスルーしているので僕も受け流すことにする。
「本来はありえないじゃん、1・2・3年が同時に2月にいるって事。だからこの機会に思いっきり遊べて楽しかったよ。フジコも楽しかったでしょ?」
「え……ま、まあ……」
本当は着替え途中で半裸だったのをスルーされたり全力で豆をぶつけられたりと良い事無しだった。
けど、が楽しそうだったから良いかな。なんて思ってしまう辺り、僕もに毒されているのかもしれない。
「あ、ちなみに同じ2月だけどバレンタインは無いから。夢小説だけど」
「何で!?」