ここは真選組屯所
一応役人なので毎日毎日治安維持のために時間を捧げてる彼等だが、いくら役人とは言え昼休みだってある
各々昼食を取ったり昼寝をしたりミントンをしたり
そして真選組隊長、沖田総悟は案の定昼寝をしていた
ちなみに沖田は今日、朝からずっと寝続けている
昼休みなど全く関係無いのだ
しかし朝からずっと寝続けていれば目だって覚める
沖田は昼休みが始まって約十分後に眠りから覚めた
起きて最初に気付いたのは、独特の鼻を突くような匂い
塗料の匂いだ
何事かと思い身体を起こすと、指先に何かが乗っていたことに気が付いた
「あっ」
「………?」
「あーもう、勝手に起きないでよー」
「何やってんだィ」
何かが乗っていたであろう指先を見ると、指先が真っ青に染まっていた
いや、指先というか、爪。
「………とうとう俺の血の色も変わったか」
「んなわけねっしょー。マニキュアだよ、マニキュア。新しく買ったの」
先程の塗料の匂いはこのマニキュアだったのだ
マニキュアの色はキラキラ光る青
「もうちっとで終わるから全部塗らしてよ」
「……………」
「ね、ね、ね?」
「………別に構わねぇでさぁ」
「やったー!」
は満面の笑みを浮かべて沖田の指先を手に取った
青の塗料をたっぷり吸い込んだ筆先は、器用に爪を染めていく
「はい、終わり」
「もう乾いてるんですかィ、これ」
「うん。速乾性のやつだから大丈夫だよ」
総語は興味深そうに爪先を指で突付き始めた
「ほんとはその上にトップコート塗った方が良いんだけどめんどいよね?」
沖田は無言で頷いた
はやっぱりね、と小さく笑い、マニキュアを片付け始めた
「随分沢山持って来やしたねー……」
箱の中には十数本のマニキュア
赤、青、黄緑、ピンク、黒など色は多彩だ
「それねぇ、一つ一つに名前ついてんだよ」
「名前?」
「うん。たとえば沖田が塗ってるそれは『詐欺師』って言うの」
「へぇ」
「沖田にピッタリ」
「何言ってるんですかィ。こんな好青年他にいませんぜ」
自分で好青年と言っている時点で既に好青年じゃない
は心の中でそうツッコミを入れた
「………」
「何?」
「土方さんも今寝不足で仮眠取ってるんでさぁ」
「……………やりますか」
「やらねぇ手は無いですぜ」
と沖田はお互い顔を見合わせてニヤリ、と笑った
「おわーっ!?」
「ひっ、土方さん、どうしたんですか!?」
山崎がミントンのラケットを持って仮眠室へ駆け込んできた
おそらくミントンで一汗流した後なのだろう
「な、なんでもねぇ、気にすんな」
「だって土方さんが大声出すから……」
「大丈夫だ。それよりも……と総悟はどこ行った?」
「休憩室にいると思いますよ」
土方は山崎の話を聞くか聞かないかの早さで休憩室へ走り出した
「!総悟!」
「どーしたんですかィピンクさん」
「土方さんどーしたの?まるで爪がおピンクにでもなったような顔をして」
「やっぱりお前らか………」
「似合ってますぜー土方さん」
仮眠から目覚めると土方の爪はピンクになっていた
と総悟がこっそり忍び込んで塗ったのだ
爪はが塗ったもので、ムラ無く綺麗に塗られている
が、自身の爪に勝手に施された技術の良し悪しなど、今の土方にはどうでも良い事だった。
「土方さん怒ってますよー」
「だからネールアートもしろって言ったんだィ」
「余計悪いわ!さっさとこの爪落とせ!こんなもん塗ったくって仕事なんざ出来るか!」
「それがさー、除光液持ってきてないんだよねー。メ・ン・ゴ☆」
「諦めるしか無いですぜ、土方さん」
総悟のいつもの笑みが入る頃には、土方の怒りも失せていた
「土方さん」
「何だよ」
「それ、名前があるんですぜ」
「名前ぇ?」
訝しげに土方が聞くと、総悟は先程から聞いた事をそのまま言った
「そのピンクは『恋愛運』が上がるってやつでさぁ。彼女いない歴XX年の土方さんにはピッタリ」
「うるせぇぇぇ!!」
「きゃー、土方さんの瞳孔が開いたぁー」
完璧な棒読み
抜刀して刀を振り回す土方を軽々と避けると沖田
それが収まったのは土方が疲れ切った後だった
「そう言えば……」
「どうしたの?」
沖田は少し間を置いてから言った
「さんざ人の爪に塗ったくっておいては爪塗ってないんですねぃ」
「あたし?」
「お前も塗れよ。俺ばっかり塗られてたら不公平だ」
土方も理屈だか屁理屈だかわからない言葉で同意する
その後に二人から言葉が発せられたのはほぼ同時であった
「俺が塗ってやるぜぃ」
「俺が塗ってやるよ」
「「………………」」
「わ、わかったわかった!じゃあ片方ずつね!右手が土方さんで左手が沖田!これで文句無いっしょ!」
「………仕方ねぇなぁ」
が慌ててフォローすると、土方は渋々了承した
そして二人はマニキュアの入った箱から乱暴に中身をひっくり返して色々と物色し始めた
男所帯の畳部屋に広げられる色取り取りのマニキュアを各々物色した後、二人はそれぞれ一つを手に取った
「じゃあ俺はこれで」
「色々あんだな……それじゃあ俺はこれだ」
「ちょ、ちょっと!二人して違う色選ばないでよ!左右違う色になんじゃん!!」
「こいつがのイメージに一番合ってるんだ」
「こっちの方が合ってやすぜ」
「………ああもう。いいよ!好きに塗っちゃって」
は諦めたように言った
二人は意気揚々とマニキュアのフタを開けて塗り始めた
ところがこのマニキュア、速乾性で塗ったらすぐ乾いてしまうので、始めて使う人には不向きである
案の定、右手に塗られたマニキュアは見るも無残。あちこち塗りムラだらけになっている
「うわー……土方さん、不器用にも程がありやすぜ」
「うっせぇ!以外と難しいんだよ!」
一方の沖田は、始めてとは思えない程に器用に筆を進めている
その手際の良さに二人は驚きを隠せなかった
「な、何でそんな器用なワケ?」
「コツを掴めば簡単でさぁ」
「よっしゃ、出来た」
沖田に数分遅れて土方も全ての指を塗り終えた
両手を見てみると、右がベージュのラメマニキュア。左手がピンクのマニキュアになっていた
「ありがと」
は上からトップコートを塗って形を整えた
「その色、きちんと名前見て選んだんですぜ」
「あー、これの意味詳しく知らないかも。後で冊子見てみるわ。土方さんのと一緒に」
「俺はどんな意味だか知らねぇな」
「そうなの?でも、折角選んでくれたんだから一応ね」
昼休みが終わり仕事が再開した真選組には、爪がピンク色の副局長と爪が青の隊長と言う異様な光景が見られた
そして
ピンクのマニキュアの意味は『エンゲージ』
ベージュのマニキュアの意味は『秘めた恋』
は後でこの意味を知り、一人複雑な顔を浮かべる事となる