「あー暑っ。何でこんなに暑いのかしらねー」
「そりゃあ今が夏だからですぜぇ」


みーんみーんみーん

じーわじーわじーわ



「………何でお前等がここにいんだよ」







さんさんさまぁ








熱さのあまり土方が冷蔵庫から麦茶を持って縁側で涼もうとしていた時、戻ってきたら縁側に何かが二つ転がっていた

沖田と


「何でってそりゃねぇですぜ土方さん」
「こうやって微妙な時期に休みなんかくれるもんだから何処にも行く場所が無いのですよ」
「せめて盆に休みくれるんなら墓参りくらい行って来るってぇのに」
「ねー」


時期的には初夏のある日のこと

盆に休みが取れなくなるからと、新選組は本日休暇日となった
特に予定を立てていなかった沖田との二人は一人暮らしをしている土方の家に遊びに来たのだ
そして今、縁側に寝転がって涼んでいる


土方の家は昔ながらの日本家屋、1人で住むには広すぎるほどの広さだ
実際、家は2階建てでも使われているのは1階だけだ

「あ、そういやお隣のおばさんが総悟の美しさに惹かれスイカを置いていったよ」
「何だそりゃ」
「俺って罪な男でさぁ」
「なんかねー『あら、土方さんちの子かい?男前だわー。ほら、スイカ食べなさい!』って」
「………で、そのスイカはどこだ」
「「あっち」」

二人が指差した先には、芯すら残っていないスイカの残害
皮のみが皿に積まれている

「………白と緑の部分まで食いやがって……」
「うりの味」
「どことなく貧乏気分」

がけぷ、と言う音を立てると、土方が足の指での膨れ上がった腹を踏んだ

「やめてー!中身が!スイカが出るー!」
「土方さん。を危ないプレイに引き込むのはやめなせい」
「プレイとか言うなこの野郎ー!!」

土方が刀に手をかける
ブンブンと振り回す刀を沖田とはのらりくらりと避けた




数分後




「もー、トシちゃん無理しちゃ駄目じゃん」
「刀は部下に振るもんじゃありゃあせんぜぇ」
「………テメェ等……」

息も絶え絶えで畳に突っ伏す土方と土方の周りに集まると沖田

「さーて、腹ごしらえもしたし、またごろごろすっか」
「にしても暑くて体温まで上がるぜぃ」
「仕方無いなぁ。そんな沖田クンに素晴らしい物を作ってあげようじゃないですか!」

はそう言って立ち上がり、勝手に台所へと足を進めた




「はい」

どん、と重そうな音を立てて沖田の足下に何かを置いた

「………水?」
「氷水です」

水を張ったタライの中にはたっぷりと氷が入っていた

「これに足をつけるのです!!」
「成る程」

ちゃぷん、とタライの中に足をつけた
水の中で氷がからんと動く

「さっき大きめの氷作るように冷凍庫に入れておいたから氷溶けたらまた入れれば良いのよ」
「お前、ここの家の主人は俺だってこと分かってんのか……?」
「うん。ここ土方家。私の名字

当たり前のように言ってのけたに、土方は大きな溜め息をついた






「ねぇトシちゃん」
「俺は田原俊彦か」
「この麦茶味薄いよー。これ何番ダシさ」
「ダシって言うな。確かまだ一回目だぞそれ」
「一番ダシのくせに味薄いよー。これ麦茶じゃないよー。むしろ麦臭の水だよー。麦茶だなんて言うのは麦茶を冒涜しているよこれ」
「うるせぇ。茶色だったら全部麦茶だ」
「だったらオメーはめんつゆも麦茶って言うのかよー。よし、今度からお茶くみの時トシちゃんのだけめんつゆを麦茶で割ってやる」
「拷問に近いなそれは」
「やーいビンボ人ー。麦茶くらい買えよー」
「………一応俺帯刀してる上に副長だぞ?」
「しみったーれしみったーれ」
「………………」

土方はもう突っ込む気も無くして、の右側に座った
左では沖田がいつもの腹立たしいアイマスクを着け、一眠りしている
いつの間にか、氷は新しい物に変えられていた









「………かゆい」
「え?」
「なんかすごく足の裏が痛痒いんでさぁ」
「は?水虫か?」
「近藤局長じゃあるめぇし」
「局長は水虫じゃないよ。ちょっと見せてみ」

ずっと水に浸かっていた足を上げ、すっかり冷たくなったそれを見た

「………しもやけだね」
「霜焼けぇ!?」
「ずっと氷水につけてたらいくら夏だからってしもやけにもなりますよ。足漬けたまま寝るから…」
「道理で痒い訳だ」
「オロナインでも塗っとく?あるよねここ」
「ああ、奥の部屋の戸棚に入ってる」

わかった、と一言言い、は立ち上がった
少し間を置いて沖田も立ち上がり、ぺたぺたとの後を付いていった

この場に残ったのは土方だけで、風鈴の音がえらく大きく聞こえた





「土方さん」
「おう、薬塗ってもらったの……か…」

土方が振り向くと、沖田が裸足で立っていた
もちろん足の裏にはたっぷりとオロナイン

沖田が通った後には転々とオロナインで光った足跡がついていた

「おわぁ!何やってんのお前ェェ!!」
「包帯どこですかぃ」
「それを早く言え!つーか動かず言え!むしろ五体満足なを使え!!」
「こんな時ばっかり女を使うのは男女差別でさぁ」
「間違っちゃいねぇがこんな時にそれを言うなぁぁ!!!」



セミの声が聞こえてくる七月の日、青空に土方の怒号が響き渡った