日もすっかり沈み、土方はふらふらとした足取りで自宅に向かっていた。
連日の勤務と沖田の起こした騒動の事後処理、近藤の起こした騒動の事後処理などに追われ、ここ数日まともに睡眠を取ってなかったのだ。

今日は風呂にでも入って早めに寝るか、などと大まかなプランを練りながら自宅の鍵を開け引き戸を開けると、プラン開始数秒にしてそれは打ち崩された。


「おかえりなさいですにゃー」
「やっと帰って来たぜぃ。また歌舞伎町でその辺の姉ちゃんと乳繰り合って来たんですかぃ」


一度戸を閉め、また戸を開けるのに数秒の時間を要した。







「何でお前らがここにいるんだ。つか人ん家勝手に上がりこんで何やってんだテメェ等!!」
「いや、土方さんここ数日まともに寝てねぇみたいだから、俺達で家事とか手伝おうと思いやして」
「いらん。そんな余計な気を回さんでいい!俺の睡眠不足の元凶はお前だろ!つか、お前何でいきなり猫語!?」
「うっさいよ副長。湿度の高いオッサンてなんかこんなん好きだろ。癒されんだろ。尻尾もあるにゃーん」

そんな趣味はないし癒されないし尻尾があるから何なんだ
とか色々ツッコミたい箇所がありすぎるが土方は状況理解にいっぱいいっぱいでツッコミのタイミングを逃した


「まあとにかく、掃除選択御飯にお風呂、ぜーんぶ私らに任せんさい…だにゃー」
「早速キャラ忘れてんだろ。テメー等に家事任せたら家が崩壊するわ!!」
「何言ってんですかぃ。俺もも一人暮らしが長ぇんだ家事全般お手の物ですぜぃ」
「御飯すぐ作るから、休んで休んで!」

に背中を押され、居間に連れて行かれる。

「この辺でごろごろしててよ!なんなら寝ててもいいよ。御飯できたら起こすし!」
「え、あ、ああ……」

ヒロインスマイル全開で言われ、思わず土方は頷いた。
その返事に満足したのか、は立ち上がり台所へと向かった。



「……ったく、何なんだよ…」

小さくそう呟きながらも、何だかんだ言って良い部下に恵まれたなぁ。と思いながら土方は縁側に寝そべった。
まだわずかに寒さを感じる春の空気に揺れる木の葉をぼんやりと見つめながら、煙草に火を点けた。

「……方……包丁で……」
「………でかい……ナタの方が……」

ああ、もうすぐ暖かくなって茹だる様な暑さがやって来るんだな。隊服に夏用とかねぇかな。などと思いながら煙草をふかす。

「……吊るし……一番よく切れ………」
「土方……殺……俺が……」

今年の夏祭りは焼きそば土方スペシャルとたこ焼き土方スペシャルどっちを堪能しようかなぁ。などと思いながら煙草を

ってスルーできるかボケがぁぁぁぁ!!!何か不穏な単語が聞こえてきたぞ!NGワードが俺の鼓膜を通り抜けたぞ!!
「なんでぃ土方さん。寝ててもいいんですぜぃ」
そんなでかいナタ携えた奴に背を向けて安眠出来るか!何だ!何を作るつもりだ!!
「新鮮ピチピチ副長の開きを。添えつけにはしそおろしとワサビ醤油を」
俺に食わせる気ねぇだろそれ!むしろ俺を食材にするつもりだろ!!

動向開き気味でそうまくし立てると、いつの間にか近くに寄ってきたに肩をポンと叩かれた

「だーいじょうぶだにゃあ、土方さん」
「何が……」
「チンギス・ハン曰く、『この世で一番旨いものは人間の肉』だそうだにゃー」



抜刀


返り討ち






「はい、チンジャオロースと米と味噌汁、デザートにリンゴ」

がテーブルに出来上がった料理を次々と並べている横で、返り討ちにされ虫の息な土方を沖田が往復ビンタで叩き起こした。


「い、意外とまともだな……」
「冷蔵庫に入ってたものだと私の腕じゃこれくらいしか作れなかったんだにゃ。総悟に台所任せるわけにはいかないし」
「違いねぇ。こいつは豚肉とピーマンとタケノコで化学兵器が作れる。俺限定で

沖田の頭をどつきながらちゃぶ台に座り、箸を受け取った。

「そんじゃ、私達も食べよっか。総悟、こっち来て座るにゃーん」
「そろそろ止めろその猫語。いい加減鬱陶しくなってきた」
「んだよー。萌えだろぃ」

ちゃぶ台を三人で囲み、同時に両手を合わせた。


「いただきまーす」
「召し上がれー」
「頂きます」


ぶしゃっ


「「あ」」


チンジャオロースが何処からとも無く取り出されたマヨネーズによって黄色い核兵器と成り果てたのは、と沖田が同時に箸を伸ばそうとした直後だった。


「んだよ。食え、うめーから」

土方は顔色一つ変えず黄色い物体に箸を伸ばし、ほかほか御飯の上に乗せて食べ始めた。



「ぴぎゃあああっ!!!」
「うおっ!いきなり奇声を上げるな!!」
「うああああん!ちゃん特製チンジャオロースがマヨネの餌食にぃぃぃ!!!」

わざとらしく顔を手で多い、嗚咽する声を上げる
それをわざとらしく抱きとめ背中を撫でる沖田。

「なんて事してくれたんですかぃ!!」
汚された!マヨネーズで汚されたぁぁぁ!!何プレイ?何プレイこれ!!
「プレイとか言うな!これは立派なおかずだっつーの!!」
「おかず!?おかずとか言いやがりますか!それは何のおかずですか!発禁もののおかずですか!!」
「土方さん……見損ないやした…そんなマニアックなプレイを好むなんて……」
「お前ら、んなでかい声でプレイとか言うな!近所迷惑だ!!」

さすがに食欲も失せ始めた土方は茶碗を乱暴に置いた。
そんな様子も気にせずと沖田は立ち上がって縁側に向かい、外に向かって叫び始めた。

ご近所のみなさーん!!土方さん家の十四郎君はマヨネプレイを好む変態ですよー!!
触るもの皆マヨネで汚すって言ってますよー!子供の情操教育に悪いとんだマヨネ野郎ですよー!!





こうして、ご近所に悪い噂が飛び交い自宅に居辛くなった土方は、これまで以上に仕事に精を出すのでした。