「いない」
籠は見事にぶち破られ、そこには暴れたらしい痕跡とそれによって落ちた羽。
そこに偶然居合わせたのはまさに不運だ。と俺は思った。
不運は保健委員の専売特許じゃないのか?
そして、その予感は案の定的中する。
「兵助、ペットのアケミが逃げたんだ。探すの手伝ってくれるよな?」
「……アケミってどんな動物なんだ?」
困っている人を見たら放っておけないこの性格は忍には不向きだと自分でも思う。
けど、やっぱり放っておけないのが人の性ってものだろう。
竹谷は人好きしそうな笑顔で籠に手を入れると、中から赤いものを出す。
「鳥だよ、鳥。ほら。こういう綺麗な赤い羽根をしている」
手のひらに乗ったその赤い羽根は、割と大き目の竹谷の手を軽く超えるくらいの大きな羽根だった。
嫌な予感がするが聞かずにはいられないので、俺は恐る恐るこう聞いた。
「…それ、どれくらいの大きさのどんな鳥なんだ?」
「えーと…これくらいで、ものすごく力が強い。ほら、これ食満先輩特製の鉄籠だけど鍵じゃなくて籠自体がぶち破られてるし」
広げた幅は、軽く1mくらいはある。
そんな鳥が学園内で野放しにされているという事実に、俺の顔は一気に青ざめた。
「それ野放しにしたら危険すぎるだろ!今すぐ探しにいかないと!!」
「そうだな。それにもっと人手も欲しい…あ、!!」
竹谷が千切れんばかりに大きく手を振ると、それに気づいた桃色装束のくのいちが笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
くのいち教室の5年。だ。
「、今手空いてるか?」
「うん、今授業終わったとこだけど……どうかした?」
「じつはかくかくしかじかで」
「ほー、二次元て便利だねぇ」
漫画的な端折り方で説明すると、は納得したように頷いた。
「で、手伝って欲しいんだ」
「だが断る」
竹谷の提案を笑顔できっぱりと拒否した。
「何でだよ!展開的に付き合うもんだろここは!」
「ええい王道なんぞ知るかい!そんな死ぬほどめんどくせぇ事付き合うか!」
「食堂の食券三枚」
「地の果てまで喜んでお供するわダーリン☆」
手に握られた職権を見るや否や、竹谷に飛びついた。
「さて……どーやって探すかなぁ…」
「簡単じゃん」
俺が捜索及び捕獲方法について考えを巡らせていると、があっさりと言い放った。
「まさか…見つける方法でもあるのか?」
「秘密裏に設置した監視カメラで痕跡を追いかけてこのサブマシンガンで撃ち落とし」
「おい待て!時代錯誤もいいとこだ!!ここはもっと原始的に!なんかもっとこう術とか忍法とかなんかそんな感じの捜索法を提案してくれ!!」
「んだよめんどくせーなぁ……じゃあ片っ端から足跡とか羽が落ちてないかとか捜索すっか」
はちっとでかい舌打ちをしながら歩き出した。
どがあぁぁぁん
と同時に視界に青いものが飛んできた。
「って、三郎!?」
飛んできたのは青色の装束を着た級友と同じ顔をした五年生。
数秒遅れて、更に同じ顔がやってくる。
「ら、雷蔵!落ち着け!話せば分かる!!」
「へぇ……たかが人1人の話を聞いただけで、褌一丁でその辺を駆けずり回っている男の何が分かるって言うのかな?」
「雷蔵、褌一丁じゃないよ、三郎は頭巾も被ってるよ。あと鳥が逃げたんだけど探すの手伝って」
「この状況でそんな話が出来るお前がすげぇよ!何だお前!猛者か!鉄の心か!!」
「だって、人は多い方がいいでしょ」
至って変わらない表情で淡々とそう告げるを少しだけ尊敬した。
そして、そんなに雷蔵は柔らかな笑みを浮かべる。
「ごめんね、。僕はちょっと用事があるから今は手伝えないんだ」
「そっか。じゃあその用事が終わったら手伝って」
「うん、すぐ終わらせてくるよ」
雷蔵はまるで委員会の用事でも片付けてくるかのように言い放つと、危険を察知し早々に逃げ出した三郎を追いかけた。
「残念だったね。人手が多い方が楽なのに」
「……いや、楽っつーかんなんつーか…」
「…あれ、追いかけた方が良くないか?」
俺の言葉に、竹谷が大きく頷いた。
「三郎を捕まえておかないと、雷蔵が益々怒り出しそうだ」
「ああ、そうかもしんないね」
は他人事のように言い放った。
「…でも、あの三郎だろ?捕まえられるか?」
「大丈夫だよ。三郎だって毒虫みたいなもんだし」
「お前、さりげなく酷い事言ってるぞ」
竹谷のまともなツッコミを気にする事も無く、走り出したを追いかけるように俺達も走り出した。