「あー面倒臭ぇ。死ぬほど面倒臭ぇ。むしろ死ぬ」
「いいから黙って探せよ。一番不安なのは竹谷なんだから、竹谷の気持ちも汲み取ってやれ」
「知るかよ。あーあーアケミか三郎、戸部先生の前に出てきてくんないかなぁ」
それ、暗に殺せって言ってるよな

真顔で恐ろしい事を言い放つに、悪寒が走ったのは決して俺が臆病者だからではないと思う。



足跡や羽が落ちてないかと辺りを見渡しながら、俺達は学園内を歩き回っていた。

「ほら、翼とかに一発入れてくれた方が動きが鈍っていいんじゃないかな」
「お前、見つけても攻撃したりすんなよ。生物委員会で飼ってるんだから無傷で捕獲するんだ」
「わーってるって………アケミって一応鳥だよね……うまいよなぁ鶏肉…ゆらりゆらりと刀でバッサリ……」
竹谷!戸部先生の前に出てくる前にさっさと見つけるぞ!!



こうして探し回ること数刻

「……こう広くちゃ、埒が明かないよな…」
「アケミの方は一応、孫兵が後輩連れて探してくれてる筈なんだが……裏山まで探すとなると人手が足りなすぎるよなぁ」
「…仕方ない。ちょっとチートになるけど助っ人を呼ぶか」

そう言っては、どこからともなくバレーボールを取り出した。
僅かに腕を後ろに引くと、そのボールを俺に投げてよこす

「兵助、レシーブ!」
「えっ!?」

急にそう言われると、俺は慌ててそのボールを拾う。

「竹谷、トス!」
「え、俺!?」

竹谷が慌ててそのボールを高く上げると、地響きが聞こえてきた。

「アターック!!!」

地面が抉れるんじゃないかという程鋭いスパイクが放たれた。
スパイクを打ったのは、七松先輩。

「よし、捕獲」

が後ろから七松先輩に抱きつくと、七松先輩に目線を合わせた。

「七松先輩、かくかくしかじかという事で力を貸して欲しいんです」
「おお、そうか!生物委員もお前らも大変だな!」
「お礼は先程言った通りのものを後ほどお渡ししますので、それに見合った力をお願いします」
「分かった、俺に任せておけ!いけいけどんどーん!!」

七松先輩は土煙を上げて裏山へと走り出した。

「あとはここで待ってれば来るんじゃないかな。良かったね、竹谷」
「て言うかチートって…七松先輩の事か?」
「無尽蔵な体力と野生の感、スピード、力強さ。あれをチートと言わずなんと言う」

その気持ちは分からなくも無い。
だか何故だろう、すごく悲しくなる。存在感とか出番とかそういう意味で悲しくなる。

そこで俺は、当然の疑問に行き当たりに問う。

「………七松先輩に、何をあげるつもりだ?」

多分漫画的端折りの中に織り込まれていたのだと思うが、俺や竹谷には内容が理解出来なかった。
竹谷も同じような疑問を持ったらしく、伺うような目線をに送る。

「その内分かるよ。きっと七松先輩ならいつだって欲しがる物だし」

が言うと同時に、バサバサという音が聞こえてきた。

「おーい!見つけてきたぞー!!」

ぶんぶんと大きく手を振る七松先輩は、上空にいた。
アケミの足に捕まり、小脇に三郎を抱えて裏山の方角から戻ってくる。

「……ね、チートでしょ」
「………確かに、この短い時間でアケミと三郎、両方連れ帰ってきて違和感が無いのって七松先輩くらいだな」

あと一年経っても、俺は絶対七松先輩みたいにはなれないと思う。
て言うか、なりたくないかもしれない。




「七松先輩、有難う御座います!ほんと助かりました!!」
「気にするな!今度は逃がさないように気を付けるんだぞ?」
「はい!今から食満先輩にお願いして、一緒にもっと頑丈な檻を作ってきます!」
「竹谷、俺も手伝う」
「兵助もありがとな。すげー助かる!」

竹谷が満面の笑みを浮かべ七松先輩に一礼し、駆け出そうとする所を、の手が捉えた。
右手で竹谷の肩を掴み、左手で俺の手首を掴んでいる。

「………?」
「まだ行っちゃ駄目。七松先輩へのお礼が済んでいない……アケミの檻は私が食満先輩にお願いしておくから」

僅かに首を横に振り、竹谷を制止する。
そこに、相変わらず柔らかな笑顔を顔に貼り付け、雷蔵がやってきた。

「三郎を捕まえたんだって?」
「うん、七松先輩が捕まえてくれた」
「七松先輩、有難う御座います……三郎、連れ帰ってもいいかな?」
「待って、七松先輩へのお礼がまだ済んでない」

竹谷と同じ理由で雷蔵を止めると、は七松先輩の方を振り返りこう言った。




「という事で、こいつら3人バレーボールの相手に使ってください。全力で行って構わないので」






その後は、想像に容易いだろう。


ただ、俺たちの様子を笑顔で見守る雷蔵に、三郎がこの後どのような仕打ちを受けるのかまでは、想像できないが。