俺との薄皮一枚隔てた本質は同じなのだろう。

互いに好きな人がいて、その好きな人は他の人と恋をしている。


叶わない恋をしている。
表面上はそれだけが共通点で、それ以外には何も無い。


だから、が俺に抱かれるのは単純な理由だ。
互いに似た相手に得られるはずも無いそれを求めている。




風呂から上がって、小さな冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取りベッドに腰掛けると、二人分の重みでベッドが沈んだ。
夜になってもカーテンを閉めていない部屋には、月明かりが差し込む。

ふと、後ろを振り向くと、外からの光に照らされた白い背中が目に入る。
肩が規則的に動いている所を見ると、疲れて眠ってしまったのだろう。


可愛いとも、いとおしいとも思う。だけど、特別な感情は抱かない。
俺はあの人に、はあいつに出会ってしまった。仕方がないと言えばそれまでだ。


が小さく身じろぎをして寝返りとうつと、月明かりに肌が晒される。
服を着せてやろうかとも思ったが、起こしてしまうかもしれないと思い毛布を被せるだけにしておいた。

このまま彼女の首を絞めてしまった方が彼女にとっては楽なのかもしれない。
床に追いやられたクッションで窒息させた方が苦しまないのではないだろうか。

そんな事を思い、彼女の首に手を掛けた事が何度かあった。
片手で締められるほどに細い首。俺の力なら少し指先に力を込めるだけで可能だろう。


今もこうして首に手を掛けているが、力を込める事は出来ない。


「謙也の手は冷たいね」

閉じられた目がゆっくりと開く。
突然の事に、俺の身体は硬直して首に手を掛けたまま動けなくなる。


「手が冷たいと心が暖かいなんて馬鹿らしいと思ってたけど、案外当たってるかもね」
「……あんなん冷え性の奴がモテる為に考えた迷信やろ」

青白い腕が俺の頬に伸びて、優しく撫でる。
こんなの、まるで恋人みたいだ。


「お前の手って、あったかいな」
「心が冷たいんじゃないかな」
「……その方がええわ」

心なんか求めていない。
お互い欲しいものはただ、相手の体温。



「なぁ、



いつか、俺には出来ん事をしてやれる誰かと幸せになれ。



その言葉を告げる資格が俺にはあるのかと自問し、口を噤んだ。











救えなかった人
(いつか答えが出る日まで)