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視界に入るのは眼鏡を掛けた男。

しかしその眼鏡には度が入って居らず、目の前の男は私が望む人ではない事を知っている。


「お前が柳生を好きなのは知ってたぜよ」
「知っているならどうして諦めないの。こんな事をしても私は喜ばない」
「なら、平手の一発でもかまして突き飛ばして逃げれば良いじゃろ。抵抗はせん」


ここに居るのは彼ではない。

それすら見抜けないほど馬鹿ではない。ふざけるなと怒鳴りつけてやりたい。
だが、彼はそれを許さない。私が彼に寄せる情の深さを知っているから。


目の前の男がまやかしのものであっても、私は


「あんたなんか、大っ嫌い」
「……俺は、お前の事が大好きじゃ」

口角を吊り上げる笑みに、現実を思い知らされる。
彼はそんな皮肉めいた口調で、歪んだ笑い方をするような人じゃない。


まやかしの彼が本物であれば、それは至上の幸せだった。
彼自身を愛せたら、どれだけ幸福になれたことか。


腰に回された手から逃れようと身体を捩れば、その痩せた腕のどこにあるのかと言う程力強く抱き締められた。

この男は最初から、逃す気なんて無かったのだ。


「どうしてその姿に。自分が好かれていないと自覚するようなものだわ」
「…俺はお前が好きじゃ。だからこうした。他に理由なんか必要無いぜよ」



それは理由ではなく詭弁だ。
全てを喰らい尽くすような口付けは、反証を考える思考回路すらも飲み込んだ。






手に入らないなら
(いっそ身体ごと)