朝になると、空気が澄んでいる気がする。
それは、気温が低くて大気中にチリが少なくなるからだという事は分かってる。
だからこそ、朝と言う時間帯はそこまで嫌いではない。
しかし、朝5時に一緒に公園を歩く彼氏がファインダー越しにしか私を見ないのだ。多少機嫌を損ねたって我が侭だとは思わないだろう。
「ごめんね、。全国大会が終わってゆっくり出来ると思ったんだけど……」
「ううん、いいよ。やるって決めたなら、納得いくまでやりなよ」
周助の撮った写真を、たまたま担任が見たのが始まりだった。
何気なく撮った風景写真。しかし、周助の写真は素人が適当に撮ったと言う域を超えていた。
プロの技術には到底及ばないものの、その写真からは何かを訴えかけるような、心の琴線に触れるものがある。
担任もそれに感銘を受けたのだろう。冬にある写真コンクールに出てみないかと提案されたのだ。
全国大会が終わり、テニス推薦が決まっている周助は、その好意を断れなかった。
「どう?今日はいいの撮れた?」
「うん……悪くは無いんだけど、いまいちかな」
一週間写真を取り続けているが、周助はその写真の出来に満足していない。
この一週間で色々な所に行った。並木道、繁華街、学校内、水族館。
そして7日目の今日、早朝の公園に来たというわけだ。
一度始めたら満足するまでとことん追求するというのが周助の性質だという事は分かっていた。
今の周助の部屋は、写真の山だ。膨大な量の写真が辺りを埋め尽くすほどにある。
それなのに、一枚も納得のいくものがないというのだ。
ここまでいくと、尊敬を通り越して恐ろしさすら感じる。
落ちた葉を踏みしめ、音を鳴らしながら歩いていると、周助は私より少し後ろで立ち止まった。
「……周助?」
「…本当にごめん」
「何、どうしたの?」
「コンクールの話をされた時、すぐに断ればよかったんだ」
子供が悪戯をして怒られたときのように、俯いてしまう。
「全国大会が終わって、なんだか足りない気持ちになってたんだ」
自然と私の足も止まり、周助に背を向けたまま立ち止まった。
「けど、こうして何日も掛かってるし、と一緒にいてあげる事も出来ない。春になったら、またテニスをする」
辺りはまだ薄暗いので人も居ない。
周助の声だけが響く。
「……僕は、に辛い思いばかりさせているね」
周助の思いが私にだけ向けられてるなんて、永遠に無いという事は分かっていた。
それでもいいと思う。そもそも、私一人で受け止めきれるものではないのだ。
私は周助の隣で、周助の見るものを一緒に見たいと思う。
感じ方は違えども、同じ世界に居たいのだ。
だから、周助が道に迷ったときは私が手を引いてあげたい。
「なーに言ってんの!周助らしくない!」
わざとらしいとも思ったが、なるべく明るく元気な声を上げる。
「折角先生がコンクールの話してくれたんだから期待に答えてあげなよ!かっこ悪いよ?」
言葉の一つ一つに思いを込めて
「私の事を大切だと思うなら、いつでもかっこいい周助でいてよね?」
そんな私の言葉に呼応するように、辺りが次第に明るくなる。
「あ、周助見て!朝日だ!!」
目の前から朝日が昇ると私は太陽を指差して、周助の不安を取り払うような笑顔で振り向いた。
「周助、コンクールで大賞撮ったんだって!?おめでとう!」
「うん、写真館に展示されてるんだ。一緒に見に行こうよ」
「もちろん!」
2人で行った写真館。そこで私が見たのは
『衒う心』とタイトルがつけられた、朝日を指差し微笑む私の姿だった。
レンズの奥(自慢したい、僕の最高の)