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忍術学園の図書室では、最近よく見られる光景がある。




委員会活動を行うために図書室への戸を開いた雷蔵は、何度見ても慣れないその光景に苦笑しつつ貸し出し口へと向かった。


「こんにちは、中在家先輩」

一つ礼をして先に貸し出し口に居た自身の先輩に挨拶すると、視線が自身に向けられ同じように会釈された。

「すいません、少し授業が長引いてしまって」
「構わない」

かろうじて聞こえる程度の小さな声だったが、静かな図書室ではその低い声がよく伝わる。
雷蔵は長次の隣に座ると、視線を下に向ける。



「また来てたんですね、黒柳先輩」
「ああ……よく眠っている」

机の陰になり外からは見えないが、長治の膝を枕に一人の少女が眠っていた。



この光景が日常となったのは何時からだろうか、と雷蔵は思い返していた。

彼女はある日、自分の巣を捜す猫のようにふらりとやって来た。
普段は活発で笑顔を絶やさない彼女は、くの一教室でも目立つ存在だ。
その上成績優秀で、実力も底が知れない。後輩の自分にもとても良くしてくれる。

実際、雷蔵自身も徹子に憧れていた。


しかし、図書室にいる時は普段の賑やかな様子など微塵も無く、ただ静かに長次の膝の上で眠り続けているのだ。
『図書室は静かに』という張り紙が貼られているだけあり騒がれるのは迷惑だが、ここまで大人しいのも普段との落差がありとても不思議だ。

「あいつは気に入らない」という自身と同じ顔をした同級生が頭に浮かんだが、あどけない寝顔を見るとそんな考えには至らない。
三郎も図書室に来て先輩を見ればいいのにな、と心の片隅で思いながら、視線を元に戻す。


「どうしていつもここに来るんでしょうね」
「……ここは日当たりも良いし、静かだからな」
「そんな事でわざわざ図書室を選びますかね?自室の方がゆっくり出来ると思うんですけど」
「………物好きだな」

こんな固い膝では寝心地も悪いだろうに、といつもの低い抑えられた声で呟いた。
長次は六年の中でも背が高く、身体も筋肉質だ。確かに、その膝は高くて固い。


ならば、何故あえてこの場に?
そう考えた時、雷蔵は「あ」と声を上げた。

その声に反応して、長次がゆっくりと横を向く。


「分かりました。黒柳先輩がここに来る理由」
「…………」

言葉にこそしないものの、その視線は雷蔵に続きを促すものだった。
雷蔵はクスクスと楽しげに笑う。


「内緒です。中在家先輩が自分で気づくべきだと思います」
「……そうか」

一瞬、腑に落ちないような表情をしたが、一度決めた事は曲げない後輩の性質を知っていたので、長次は小さく頷いた。

それとほぼ同時に徹子が寝返りをうつと、忍装束が乱れる。

「…全く、世話の焼ける……」


口では母親のような事を言い、服装を直す長次。
いつも通りの無表情ではあったが、身に纏う雰囲気が普段のそれとは違いとても柔らかだと気づいた雷蔵は、近い将来を想像し嬉しそうに微笑んだ。