冬の北海道に行きたい。
唐突にそんな事を思うのはここがアホみたいに暑いからだよ。





ジリジリと照りつける太陽。じわりと滲む汗。
完全インドアの私にこの暑さは辛い。


ふと、顔を上げると夏に見ると鬱陶しいことこの上ない真っ赤な頭が近寄ってきた。
刈れ。私の視界から失せるかその頭を丸刈りにしろ。


「おいマネージャー、飲み物くれ」
「あいよ。つうかマネージャーじゃないし。臨時の手伝いだし」

ドリンクの入ったペットボトルを投げて渡すと、ブン太はそれをキャッチして飲み始めた。
そのまま私の座っているベンチに並んで腰掛ける。



「考えられん。なんでこんな暑い中運動しようと思うのかな。何なの。ドMなの?」
「大会近いから仕方ねーだろぃ。テニス部じゃないのにお前にも手伝わせて悪いな」
「マネージャーが体調崩して倒れたんでしょ?仕方ない。マネージャー可愛いから仕方が無い」


本来、テニス部には正式なマネージャーがいる。
そのマネージャーを差し置いて私が何故こんな事をしているかと言うと、先程の私の説明的な台詞を読めば分かる。
線の細い愛くるしいマネージャーは、この暑さにそのか弱い身体を蝕まれてしまったのだ。ああ可哀想!!


「あんな細くて可愛らしい子だもの、こんな暑さには耐えられんだろうよ。むしろあの白い肌が焼けるなんて許さん。紫外線が許そうとも私が許さん」



『せんぱい、ごめんなさぁい……私ぃ、身体が弱いんです…』


節目がちにそんな鈴の音のような可愛らしい声を出されたらもう。たまらん。




「いいなぁ……あんな可愛い子がマネージャーとか。モテモテだろ。頑張っちゃうだろ。羨ましい!笑顔でタオル渡されたらあーもー!!」


愛らしいマネージャーの姿を想像してへらっと笑うと、ブン太は私を冷めたような目で見つめた。
何だその可哀想な物を見る目は。


「……あいつのスッピン、見たことあるか?」
「え?…………無いかなぁ。でもまあ、あれだけ可愛かったらスッピンだって可愛いだろ」
「俺は、あいつを見て化粧は一種のペテンだと悟った」


ブン太の言葉に、私はぽかんとした表情を浮かべた。
ぺてん。ペテン……って事はまさか。


「汗であいつの化粧が剥がれ落ちた時にはな…「うああああ!聞きたくないっ!!」
「聞け!現実を受け入れろ!!」
嫌だぁ!私は認めん!認めんぞおおぉぉぉ!!

耳を塞いでごろごろとのたうち回っていると、ブン太が私の両腕を掴んで引っぺがした。


「何に夢を抱いてんだお前は。女ならもっとかっこいい男に夢を持つべきだろぃ。俺とか」
「男なんて夢も希望も無いだろ。どいつもこいつも家じゃ汚ねーベッドに寝転がってポテチ食いながらゲームしてんだろ。お前とか。それのどこに希望を持てというのだ」

私がそう言い放つとブン太はしょっぱい顔をした。
君のそんな顔を見たのは初めてだよ私。


「女だってお前と似たようなもんだろ」
「認めん。誰もが体育のテストで側転と倒立前転を指示したのにバク宙と前宙やって最低点数つけられたからって体育教師が泣くまで体育教官室のドア蹴りつけたりなんかしてないもん」
それは間違いなくお前だけだ

程々にしてやれよ、と呆れたように呟く。
それに適当な返事をしつつ洗濯が終わったタオルを畳む。





「………なぁ」
「何。スポドリはもうやらんよ。飲み過ぎると血糖値上がるからね」
「違ぇよ!そうじゃなくて……」
「何。あんたがそういう態度してんの気持ち悪い」

私が作業の手を止めずに急かすと、ブン太は溜め息をひとつ吐いてから何かを決心したように顔を上げた。


「……お前、うちのマネージャーに嫌われてるよな」
「は!?何で!?」
「あいつ、好きな奴がいるんだよ。この前告白した」
「マジでか……誰だその超うらやましい野郎は…刺したろうか……キリで太もも刺したろか………」
「………いや、俺なんだけどさ」
「お前かよ!!」

なんだそれは!俺を刺してくださいという意思の現われか!!
お望み通りそのむっちむちで脂肪と筋肉の入り混じった太もも刺したろうか!


「何だい。自慢かい」
「断ったんだ。他に好きな奴がいるって」
「なんてバチ当たりな……つか、それで何故私が嫌われなきゃならんのだ」
「……気づかないか」
「何が」


事も無げに言い放つとブン太はがっくりと肩を落とす。
何だ。私は何か失望させるような事をしたか。




「………はっきり言わないとわかんねーみたいだな」
「おう、よくわからんがはっきりと言ってくれ」











、俺と付き合っ「断る














行き場のない想い
(「何でだよ!!」「うるせー!私はこれ以上マネージャーちゃんに嫌われたくないんだよ!!」)