ベッドにごろりと寝転がりだらりと腕を下げていると、左手の小指に締め付けられる感触。
何かと思い自分の左手を見ると包帯が巻き付いていた。

その白いガーゼを辿っていくと案の定、恋人の姿。



「何ですかこれは」
「ん?………愛の証?」


蔵ノ介の言葉に背中がぞくりと泡立つような感触。


「寒っ。きしょっ。関西人は愛だの何だの言わないもんじゃないの?」
「他のやつは知らんけど必要に応じて使うで、俺は」
「365日歪み無くプレイボーイという事ですねわかります」

適当に返事を返しつつ包帯を解きにかかる。
が、いくら力を込めてもびくともしない。

結び目はきっちりと固結びされていて、片手の力だけでは解けない。
かといって、引き抜こうにも締め付けが強すぎて動かない。


「蔵ノ介、これ解いてよ」
「嫌や。誰も見てないからええやろ」
「あんたと繋がってる時点で精神衛生上よろしくない」
「彼氏に向かって随分ひどい言い草やな」

蔵ノ介は読んでいた雑誌を閉じると、ベッドの上に乗ってきた。
何となくその優越感に浸った顔が気に食わず、私は包帯を思い切り引っ張った。

その拍子に蔵ノ介はバランスを崩すが、すぐにもう片方の手で体勢を持ち直した。



、お前なぁ…いきなり何すんねん!」
「……随分目立たなくなったね、手のマメ」
「………ああ、大分手の皮も固くなったからなぁ」

包帯が解けると、左手にはマメが潰れて固くなった痕。
それも一箇所じゃなく、左手のあちこちに出来ている。

入部した時も、2年で部長になってからも、蔵ノ介の練習量だけは人一倍多い。
そのせいで、ラケットを握る手はボロボロになってしまった。


「もう取れば良いのに、包帯」
「そういう訳にもいかんのや。金ちゃんを抑えるもんが無くなるし…それに、見せたがりみたいでかっこ悪いやろ」

そんな事を考える辺り、まだ幼い所が垣間見えていとおしい。


「蔵ノ介を見てるといつも思うよ。人の天秤って常に傾いているもんだなって」
「……何やそれ。良いもんと悪いもんが平等に釣り合ってるっちゅーのが一般常識と違うんか」
「いや、平等なものなんて無いよ。だからきっと、良い方に傾けようと努力するんだよね」

わざとらしく満面の笑みで言うと、蔵ノ介は珍しく照れたように視線を逸らした。
してやったり、と思うのは間違った思考回路ではないだろう。





「………つうか、いい加減解いてくれませんかね。思うように動けない」
「…このままっていうのも悪く無いかなー、と思うんやけど」
「いや、まあ確かにこの体勢なら事に及ぶ事も出来るだろうけど。私に選択肢は無いんですか」
「欲しいんか、選択肢」
「それはもう」
「なら、手か口か。どっちか選ばせたるわ」

今度は蔵ノ介が満面の笑みで答えた。
ここでしてやったりの顔は間違ってませんか、白石君。



「前言撤回。あんた最悪」
「せやけど、嫌いにはなれへん。難儀やなぁ」

他人事の様に言い放つその言葉に苛立ちを感じながらも、否定出来ない自分がいる。





ああ、もういいや。

今はその整った顔に似合わない無骨な掌に触れているだけで、満足だ。













君を縛るもの
(兎にも角にも、私はお前が好きなのだから)