私は食べるのが早い。箸の使い方が正しくない。正座なんか長時間もたない。
男子諸君がひっそりと胸に抱く大人しく礼儀正しい理想の女子とは遠くかけ離れている。



それでも作り物の自分を好かれるよりは本当の自分を知り嫌われたい。

だから私は食事を早く食べ終えてしまうし、箸だって直さない。時にはあぐらだってかく。


自然体といえば聞こえが良いかもしれないけど、理想の姿を作り続けるのは疲れると思っているだけ。
その実、心の底から嫌われるのを恐れている。なんて矛盾した感情。




そして特別な好意を抱いた相手にもこんな姿を晒している私。
それなのにこうして2人で毎日昼休みにお弁当を食べてくれるという事は、多少の期待をしてもいいのではないかと思ってしまう。


彼は食べるのが遅い。箸を綺麗に持つ。正座はしないけど振る舞いが綺麗だ。
おそらく育ちの良さと彼自身の性質から来ているのであろうそのスピードとマナーは彼らしいとも思う。


彼がお弁当の三分の一を食べる時、半分ほど空になった私の弁当箱を見つめ、「ちゃんのお弁当のだしまき卵、おいしそうだね」と呟いた。
そんな彼に私が気前良くおかずを分けるその根底には、だしまき卵一つを彼が消化する時間分の延長料金。

その代償であれば、エネルギーとアミノ酸の補給など私にはどうだっていいのだ。


どうか何物も邪魔してくれるな。
この2人の時間が少しでも長く続くのであれば、短時間で体内に押し込められてしまう私の弁当なんて幾らでもあげるから。



彼にとっては私がそんな事を考えているとは思いもつかないだろう。
その証拠に、彼は私だけに柔らかな笑みを浮かべ「おいしいね」というエクストラを私にくれた。



私の全てを知った上で、丸ごと全てを好いてもらおうなどという考えは都合良く歪曲した考えだ。
それでも彼が私に与える一挙一動は否が応でも勘違いをさせてしまう。



普段からストイックで自分にも他人にも厳しい彼の笑顔一つ向けられただけで私は幸せだ。






この単純明快な感情の浅はかさといったら。










擦り切れた心(私の自制心が完全に千切れてしまう前に)