気難しそうに見える彼は、案外単純で分かりやすい男だ。






縁側から差し込んでくる日の光に照らされ、ぽかぽかと日光浴をしていると、すっと人影に遮られそれは中断せざるを得なくなった。
視線だけを上に向けると、癖のある柔らかな長い黒髪。
更に上に向けると、長い睫毛で縁取られた大きな目と視線がかち合う。



「どうしたのー、兵助」
「どうしたの、じゃない。こんな所で何やってるんだ」
「え?見てわからない?」
「……見て分かるから聞いてるんだ。ここは俺の部屋だぞ」
「うん、知ってる」

へらりと笑うと兵助は一瞬眉間に皺を寄せるが、溜め息をひとつ吐くと私の横に腰かけた。



「気がすんだら帰れよ」
「いたら迷惑?」
「これから予習と委員会の作業がまだ残ってるからな。誰もいない方が集中出来る」


嫌じゃないくせに、兵助はそういって建前を作る。
分かっているけど言わない。知らない振りをしている方が兵助にとって都合がいいから。


「外は寒そうだね」
「そりゃあ、冬だからな。今の時期は煙硝蔵の作業も大変だよ」
「じゃあ、兵助今は冷たいの?」
「……さっきまで火薬の整理してたからな」



ここで手を伸ばして抱きつくと拒絶される。突然の接触に兵助は驚いてしまうから。
だからここで少し待つ。視線だけをじっと、兵助に向けて。


「…………ん」


私が動かないと、兵助は焦れて自分から手を伸ばす。
そこで私がその手を取って、冷たい手を温める。


ここまで来たら、あとは簡単。
その手を引いて、空いた手を兵助の背中に回すだけ。


鉄と火薬に混じって、兵助の匂いがする。
骨張った手をしっかりと握り、離さないようにしてこう言うだけだ。








「兵助、だいすき」





ほら、結局私の狙い通り。