普段は大勢の選手で活気溢れるETUのクラブハウスも、休日には静まり返る。
はそんな人気の無いグラウンドを横目に廊下を歩いていると、後ろから足音が聞こえた。



さん、お…おはようございます!」

緊張気味に肩に力が入ったような様子で、椿がサッカーボール片手に頭を下げた。



「おはよう椿くん、今日は練習休みなのに来たの?」
「はい、自主練しに…」
「そう、頑張るのは良いけど、無理して怪我しないようにね」
「ウス!」

が笑顔でそう告げると、椿は僅かに頬を赤らめながら返事をした。


「それじゃ、私は仕事があるから。よいしょ…っと……」
「え…あ、さん!そんな重たいもの…!」

書類の束が溢れんばかりに詰め込まれた段ボールをふらついた足取りで運び始めたを見て、椿は慌ててに駆け寄った。


「俺、持ちますから!」
「え?いいよ…練習しに来たんでしょ?」
「そんな姿見たら俺、心配で練習に集中出来ないです!」
「……そっか、悪いね。じゃあ、お言葉に甘えて運ぶの手伝ってもらおうかな」
「はい!」

こっちだよ、とが一歩先を行き、椿はその後ろから段ボールを抱えて歩き出した。






「ここまでで大丈夫。ありがとね、椿くん」
「いえ、力仕事は得意なんで…他にも、仕事があったら遠慮無く言って下さい!」
「…ほんとに?助かっちゃうなぁ」

はニッコリと最上級の笑顔を見せ、椿の頭を撫でた。
すると椿の顔は更に赤く染まり、あわあわと焦ったような表情を見せた。


「じゃあちょっと買ってきて欲しいものがあるんだけど、いいかな?」
「はい、普段お世話になってますし当然です!」
「ありがと!じゃあこれ、買い物リストね。ちょっと私物も混ざっちゃってるんだけど…いいかな?」
「は、はい…」

椿は私物、の言葉にどきりと心臓が跳ねるのを感じながらも必死に悟られないようにメモを受け取った。







「随分と期限が良いじゃん」
「おはよう監督。相変わらず遅い寝起きで」
「休みの日くらいゆっくり寝かせろよ。で、何かあったのか?」
「ん?可愛い忠犬がちゃんと買い物出来てるかなーと思って」

忠犬という単語に、達海はこの場に居ない、休みの日でも必ずボールを蹴りに来ている椿の姿が見えない事に気づく。


「で、何なんだ。猫被りの性悪なお前がご機嫌な理由は」
「まあなんて人聞きの悪い。否定しないけどね…これ、椿にお使い頼んだの」

ポケットから先程椿に渡した紙の写しを達海に見せた。
その紙を受け取りそこにある文字の羅列を目で追うと、達海は溜め息を吐いた。


そのメモには


ビニールテープ
A4コピー用紙
ホッチキスの針
クリアファイル

といった事務用品の中に


グロス
ストッキング

という女性特有の物が混ぜ込まれていた。




「最初の方はともかく…お前、これすぐ必要なものじゃないだろ」
「さっすが監督、女を分かってるね」
「お前なぁ…」
「だぁってさ!椿ったらほんと犬ッコロみたいでさ…可愛いとつい苛めたくならない?」

は悪びれもせず王子も上手いこと言うもんだねー、とけらけら笑いながら言う。


まったく、椿もとんでもない女を好いたものだ。
と、達海はここに居ない椿に内心同情した。


「…あまり苛めてやるなよ」
「何言ってんの。これが私の愛情表現だよ」





今頃、顔を真っ赤にして自身の役に立とうと奮闘してるであろう椿の姿を想像し、は嬉しげに笑った。