「さーん!!」
「何ようるさいわね屋上からうどん足にくくりつけてバンジージャンプしなさいよ」
「相変わらずのクールビューティー!!」
これは氷帝学園の、ちょっとだけバイオレンスなカップルの日常の一端である。
「はぁ…」
「相変わらずやな、鳳」
「ほんと鬱陶しい。ほんと嫌だ」
自然と漏れた溜め息に、独特な笑い方と共に忍足が反応した。
宍戸も自分のパートナーの話だと気づくと顔を上げた。
「まあ、長太郎も悪い奴じゃないんだけどな」
「鳳に別れろって言うたらええやないか」
「嫌だって言ってるんだよ言ってるのに変わらないんだよ」
机に突っ伏したまま、恨み言を言うようにぶつぶつと呟いた。
「嫌だと言うのに付き合い続けると嫌がっているのに止めない鳳……」
忍足と宍戸が顔を見合わせてから大きく頷いた。
「…SMだな」
「SMやんなぁ」
「おいこら誤解を招くような発言を今すぐ撤回しろお前ら」
放課後になるとまたすぐに長太郎はの元へと駆け寄る。
「さん、さん」
「うるさいわね騒音公害撒き散らした責任取って腹切って詫びなさいよ」
「まさかこの平成の世で切腹言い渡されるとは思ってなかったです!」
「そこで何故抱きつく。離れろ」
絶対零度の声にさすがの長太郎も怯んで腕の力を弱めた。
「で、何」
「え?」
「さっき名前呼んだじゃない」
「いや…俺、先輩見つけたら条件反射で名前呼んじゃうんで」
「なんだその誰得なただ私をイラつかせるだけのポンコツ機能は」
の苛立ちを察したのか、長太郎は慌てて弁明した。
「あ、でも!用事はちゃんとあるんです!」
「随分取って付けたような用事ね。つまらない用事だったら絞め殺すわよ」
「先輩といるといつもデッドオアアライブですね!」
「だから何。私だって暇じゃないのよ」
「あ、はい!あの…次の試合、勝ったら俺とデートして下さい!」
一応二人は恋人と呼ばれる間柄である筈なのだが、毎度このやり取りを繰り返す。
「………」
「あの、駄目…ですか……そうですよね…」
「…私は面倒事が嫌いだし、惚れた腫れたもその範疇に入るのよ」
「俺の事も…嫌い、ですか…?」
「話を最後まで聞かないところはパートナーに似たのかしらね」
は呆れたような表情で、長太郎の額にデコピンをした。
反射的に涙目になりながら額を押さえる長太郎を見て、今日何度目かわからない溜め息をついた。
「……でも、その何事にも前のめりな姿勢は嫌いじゃないわ」
そう言ってニヤリと口角を釣り上げる笑みを見せた。
「さ……さあぁぁぁん!!」
「ぎゃあぁぁぁここ何処だと思ってんだあぁぁぁ!」
長太郎は自分より遥かに華奢なをきつく抱き締めた。
すると程無くしての全力ビンタがまともに長太郎の顔面を捉えた。
「あんたもう最低!水の無いプールに全力で飛び込んで頭打て!!」
「その辛辣な物言いもたまらないです!さん大好き!!」
「…SM?」
「SMやんなぁ」
冒頭と同じような台詞だが、彼らの脳内でSとMの関係が逆転している事は言うまでもない。