「悪いが…お断りする!」
そしてほぼ無理矢理に受話器が置かれた
少々苛立った様子だ
それもその筈。もうこの行動を数十回繰り返しているのだから
「どこもかしこもウチとの練習試合を申し込みに来てる……相当気になっとるな。手塚目当てか、それとも……」
「あはひっひょー」
「ん!?」
振り向くとそこには煎餅を口一杯に頬張ったがいた
もがもがと口を動かし煎餅を消化してからまた喋り出す
「やっぱんぐんぐナンバァワンミクスド選手のぐもぐもぐもちゃんでしょ」
「そりゃあ、ミクスドは今年から始まったから気にはなっとるだろうが」
「私よりばりばりばりリョマ子やヅカの方が話題になるってか!けふっ」
「いや、そうは言っとらんが……」
は二枚目の煎餅をバキッとかじってからお茶をぐびっと一気のみした
「いいよいいよ。どーせ負け無しで全国制覇するつもりだしー?したら自然と注目も集まるってもんでしょ」
「取り敢えずお前はコンビネーションの強化だな。好き勝手やっとるようじゃこの先勝てんぞ?」
「はいよ。頑張っちゃいまっす」
「ところで」
煎餅を三枚ほどごっそり取って、両手に持ちながら返事をした
「なんでございましょ?」
「その茶と煎餅はどうした?」
「茶はさっき英語のセンセが竜崎センセーにどうぞって。煎餅はそこにあったの」
が指を指したのは竜崎先生のデスク
「ー!!!」
「ごちそうさまでしたー!!」
煎餅を持ったままコートに向かうと、ジー、と言う機械音が辺りから聞こえてきた
コートに入る手前の水道で、フジコとエージが顔を洗っていた
「ねぇねぇフジコ、エージ」
「何、……って言うかそのお煎餅何」
「食いたい言うても食いかけしかやらんかんね!」
「いや、いらないし」
即答
「そんな事よりもさ、何か辺りで変な音しませんかね?」
「ああ、ビデオカメラの事?」
「ビデオカメラなんだ。てかなして?」
「多分偵察じゃないの?この音嫌だよなー。何校偵察してんだろ」
「そうだね」
とおもむろにフジッコが顔を洗ってた水道の蛇口を押さえつけた
そして少しだけ指をずらして、水をあたりに撒き散らした
「うわっ!」
「ビデオカメラがー!!」
「何すんだ青学めー!」
わらわらと出てくる人、人、人
まさかこんなにいたとは……
「ってあー!!!」
「な、何!?」
「フジッコのアホー!煎餅がぬれせんべいになっちゃったじゃないかー!!」
「って言うか、びしょ濡れだにゃ……」
「ふぇ……ふぇ………ぷひゃん!!」
変なくしゃみまで出してしまった
ヒロインなのに!ヒロインなのに!!
「──偵察人数49人。去年と一昨年の平均と比べると1.75倍増えてる」
「乾もそんな細かい数字調べるなんて随分暇してたんだね……特別メニュー作ったげよっか?」
「……いや、いい」
乾は何か微妙に影と逆光を背負っていた
「先輩達!」
「おんや、桃。どーかした?」
「これから買い出しに行って来るんすけど何か必要なもんありますか?」
「なになに?買い物行くの?ついてってもいい?」
「いいっすよ。どーせスポーツ用品店っすけど」
「新しいガット欲しいんだよね。今のちょっと古くなってきてさー。あ、多少の荷物持ちはやるよ?」
「大丈夫っすよ!マサやんも一緒に行くし」
「そかそか。じゃあ安心して荷物持ち任せられるねぇ」
「」
「はいよ」
乾はノートの切れ端に独特な字で何かを書き出した
書き終えるとそれを私に渡してきた
「買ってきて欲しい物をまとめておいた。あったら買ってきてくれ」
「何書いてあるんすか?」
「えーっとね、店長の髭、勇者の涙、ユニコーンの角だって」
「一つも掠ってないぞ」
「ちょっとRPG風にしてみたのに!」
店長の髭はRPG風じゃないとか言うな!
「ルールブックとドリンクの粉とクエン酸ね。了解!」
「くえんさんって何なんすか?」
「これを水に混ぜて飲んだりするのよ。疲労回復に効果的なのです」
「へー」
「まあ単品だと酸っぱいんだけどね。酸だし」
「先輩って変な事ばっか知ってるっすね」
「ちゃんの為になる雑学講座だヨ☆」
うんちくよりトリビアの方が聞こえが良いのは何故だろうね!
「じゃあ行きますか!」
「ちゃっちゃと済ませて練習戻りましょう」
「じゃあ俺竜崎先生から部費貰ってくるっす」
桃は小走りで校舎へと向かっていった
私は桃が来るまで暇なのでそこら辺をぶらりぶらりと浪漫飛行していた
すると、コートの中から大崎が声を掛けてくる
「あれ、買い物?」
「おう、大崎!買い物ですぜ。色々買い足しするもんあるしね」
「つーかさ、あれ見てよあれ」
「ん?」
大崎の視線を追いかけると、先には白ランでオレンジ色の髪をした人がいた
「あの人がどーかしたの?」
「さっきから女テニのコート眺めてニヤニヤしてんのよ。どうにかしてくんない?」
「いや、私にどーにかと言われても……」
「とにかく行ってこい!」
ドカッと半ば蹴り出す感じで(むしろ蹴り出された)私は、ゆっくりとオレンジ髪に近付いた
ラケットバッグを背負って、やっぱり女テニのコートをじーっと見ている
「あのー」
「ん?」
声を掛けるとオレンジ髪はこっちを見た
美形っちゃあ美形なんだけど鼻の下伸びてるよこの人
なんだかなぁ
「ずっと女テニ見てるよね。どうかしたの?」
「あれ、もしかして女テニの子?」
「うん、まあ。今はミクスドだけど」
「ほんと!?いやー、可愛いなぁ。名前は?学年は?付き合ってる子いるの?俺と付き合わない?」
「え、ええ!?」
いきなりの質問責めに思わず焦った
しかも両手を握られてますよ今
「ああ、俺山吹中3年の千石清純!キヨでいいよ。で、君は?」
「えっと……青学3年のです……」
「ちゃんかー。可愛い名前だね」
たーすけてー!へるぷみー!!
桃はまだ戻ってこねぇしよ!
大崎は助ける気無さそうだし!むしろ我関せずって感じですよあの人!
薄情者ー!!
「ねぇ、困ってんじゃん」
「え?」
「手出さないで貰えませんか?」
いつの間にか横にリョマ子が!
図書委員の仕事で遅れるって聞いてたんだけどもう終わったのかな??
「先輩、この人誰っすか?」
「山吹中のセンゴクキヨスミ君だって」
「キヨでいいって。この子誰?彼氏?」
「いや、こう……
「そうだよ」
何か大嘘ぶっこいてますよこの人!!
「ちょ、ちょっとリョ……
「この人追い払いたいんじゃないんすか?」
「まあそうなんだけどさぁ……」
「どう見ても付き合ってるようには見えないね」
あっさりバレた!?
「俺らは付き合ってます」
「だってそういう感じ全然しない。つーかさ、君ちっちゃいよね」
リョマ子にとってはかなり辛辣な攻撃だ!!
うわー、明らかに怒ってるよ……
「………身長は関係無いっすよ」
「そーかな?身長低いのって女の子と付き合うに当たってかなりネックだと思うけどね」
更に150のダメージ!!
「あ、もうこんな時間。練習抜け出してきてるから戻らないと!」
キヨは携帯のディスプレイを見て慌てて走り出した
「じゃあねちゃん!俺、諦めないからー!!」
どでかい声を張り上げてこっぱずかしい事を良いながらキヨは去っていった
まるで台風一過。嵐の後
無言のリョマ子がめちゃめちゃ怖い
「………先輩!!!」
「はぃい!?」
「男は身長関係無いっすよね!」
「う、うん、まあ、かっこよければ身長とかは関係無いと思うけど………」
いきなり何を言い出すかと思ったら
あーびっくりした
「先輩、遅れてすんませんっす。なかなか見つからなくて……」
「………遅いよ、桃……」
脳天気な桃が今だけ羨ましいとか思った