バスに揺られて乙女心揺られてやって来ましたテニス名門校氷帝学園

金持ちくっせー学校だわ
腹立つから校門に落書きしてやろ
『手津火苦仁魅痛参上』って書いてやる


「おい!お前何やってるんだ!」
「えー?何って金持ち臭くて腹立つから校門に落書き……っておわー!!」

振り向いたらそこには氷帝ジャージ!!
しかも5,6人いますのことよー!!

「その制服青学だな!?青学が何しに来た!」
「まさかスパイか!?」
「ちっ、違うっちゅーねんっ!違うっちゅーねんっ!!大体スパイだって証拠がどこに……」
「その手に持ったノートと怪しいほっかむり」

うっ、バレた!!
こうなったら逃げるしか無い!

「ちぇいっ!!」
「あ、逃げやがった!」
「追えー!!」

捕まってたまっかい!
逃げ足だけは菊丸にも勝るわ!!





その頃コートでは

「………はぁ」



跡部が溜め息をつくのを見て、岳人と長太郎と滝が鳥肌を立たせた
ジローは相変わらず眠そうに目を擦りぼーっとしていた

「………あ、跡部がまたアンニュイな気分でアフタヌーンティーを……!!」
「寒い!寒すぎる!!背景に薔薇しょってんぜ……」
「ねー樺ちゃん、何で跡部はいつも以上におかしいの?」

微妙に失礼

「…ストリート、テニスコートで………」
「あー、あそこのナイター設備のあるとこ?」
「まーた何かやったんか」
「………青学と会って…女の子に………」
「フラれた?」
「カルボナーラを奢りました………」

4人は目を丸くする

「………………カルボナーラ?」
「それって貢がされたって事ー?」
「貢がされたにしても、カルボナーラは無いよねぇ……」
「なぁなぁ、それってどんなやつなんだ?」

岳人が樺地に聞くと、樺地は少し間を置いて、ゆっくりと喋りだした

「………制服を着ていて」
「うんうん、それで?」
「………髪が長くて」
「おー、ロングヘアか!」
「………細くて」
「そりゃ女の子だからね」
「………変な人で」
「「「「それで十分だ」」」」

岳人は十分すぎるほどだ、と付け足した

「青学の女子でテニス部とつるんでて変人なんて一人しかいねぇ」
「ミクスド選手の、だっけ?」
「あいつも黙ってりゃ美人なんだけどなー」
「先輩達はその人知ってるんですか?」

「実際交流がある訳じゃねぇんだけどさ………」
「一度見たら忘れられないよね、あの人……」

岳人と滝は遠い目をした
その視線はどこか虚ろだ

「アイツに会ったのは……去年の新人戦だったかな……」
「あ、何か話長引きそう………」
「じゃあ俺、お茶煎れてきます」






〜岳人の回想〜


「ゆーし、お疲れ」
「ほんま疲れたわー。岳人、金やるから飲みモン買うてきてや」
「えー!?」
「ほれ、岳人の分もやるわ」

侑士は俺の手に240円を乗せた


「ったく……人使い荒いぜ」

ぶちぶち文句を言いながらも、俺は自販機があるところまで歩いていった

「俺はコーラでー……ゆーしはアクエリアスでいっか」

ごがっ

「………ん?」

音のした方を見ると、青学の奴が二人いた
男と女で、どちらもレギュラーのようだ

「ねぇ、大人しく係の人を呼んだ方が………」
「うっさい!そんなチンタラしてられっけー!返せ!私の120円もれなく返せ!!」

そう言ってドカドカと自販機を蹴る女
釣り銭返却レバーもひたすら動かしている

そして


ガンガラガラガラガラッ、ゴガガッ


取り出し口から缶ジュースがとめどなく流れてきた
多分あの自販機は壊れただろう


「………………テヘッ☆」
「テヘッ☆じゃないよ!犯罪だって!」
「だいじょーぶ!自販機さんが反省して何倍にもして返してくれたと思えば!」
「思えないし!て言うかこの自販機どうすんのさ!」
「取り敢えず力技で形は軌道修正出来るっしょ。そんでもって………」

と呼ばれた女はこっちを振り向いた
妙な笑顔で、思わず一歩後ずさってしまった

「はい、これあげっから黙っててね」

そしておしるこの缶ばかりを数十缶俺に持たせた
熱っ!つーか重っ!!

「あとは何を買うつもりだったんだい?」
「え……コーラと、アクエリアス………」
「ほれ、持ってけドロボーオカッパ☆

すごく不名誉だ

て言うか名誉棄損じゃねーのか?


「さて、あたしらは残り全てかっさらって逃げましょう!」
「これ全部!?」
「証拠は隠滅するに限る!今こそ必殺のフジコダッシュを見せやがれ!!」
「そんな技無いよ!!」

こうして夫婦漫才を繰り返しつつ、二人は足早に去っていった
俺に残ったのはコーラとアクエリアスと大量のおしるこ

戻った頃にはおしるこのせいでコーラとアクエリアスがすっかり温くなっていた



〜回想終了〜





「………ってな事が…」
「そうか、あの時皆に配ってた大量のおしるこはそういう事だったのか……」
「お陰で俺はしばらく『オシルコカッパ』ってあだ名が……」
「そうやって呼んでたのゆーちゃんだけだけどねー」

何だか5人はまったりとお茶を飲みながら思い出話に花を咲かせていた


「でも、そんな人と跡部部長がくっついたらどうなるんでしょうねぇ……」
「………見てみたいけど……」
「見てみたくないような………」










そして私は未だに逃げ回っていた
更に逃げること数十分

………迷った
氷帝学園広すぎじゃー!!
いや、むしろ中に逃げ込んだ時点で不利だったわ……


「と、とりあえずきゅーけぃ………」

ぜーぜー言いながらへたりこんでいると、急に影がさした
上を見上げると、水色の布が目に入った


「青学がこないなとこに何の用やー?」

おわー!また出たー!!
しかも今度はレギュラージャージ着とるわー!!

「逃げんでも取って食うたりせぇへんって」
「だってー……」
「さっきまで追いかけられてんの見とったわ。アイツら準レギュラーでな、他校生や後輩に威張り散らすのが生き甲斐みたいな奴らや」
「そこまで言わんでも」

取り敢えずこの人は良い人そうだ
ここ関東のくせに関西弁だけど

私は少し休んで息が落ち着いたようで、ゆっくりと立ち上がった
……そう言えば怪我してんのに結構ドタバタ走り回ったなー
今更になって痛い。ちくしょう

「その腕大丈夫かー?怪我人が無理したらあかんで」
「大丈夫だと思うけど……ちょっと痛いかなー」

何かこの人めちゃめちゃ優しいなぁ
優しい事は良いことだ。よし、顔でも覚えとこう


「………………」
「………どないしてん?」
「………んなーっ!?」

改めて顔を見てビックリ
こいつ丸眼鏡だー!!
しかもダテだー!!

「おらー!!」
「おわー!?」

目潰しをしようとしたら上手く避けられた
さすがレギュラーなだけあって俊敏っ!!

「な、何すんねん!」
「うっさい!そんな目潰ししてくれと言わんばかりの眼鏡してる方が悪いんだい!」
「どんな理屈や!」

こう言ってる間にも目潰し攻防戦は繰り広げられております
そして全て上手く避けられてしまってます

「………お前青学レギュラーやんな?」
「おうよ。ミクスドだぜい」
「て事は偵察かいな?」
「まあ平たく言えばそうだねっ」
「いい加減目潰しは諦めんかい」

今度はすんでの所で手首を掴まれた
くそー!なんでこんな丸眼鏡のくせに俊敏なんだよ!

「したらコート連れてったるわ。こっち来ぃや」

手首を掴まれたままズルズルと引きずられていった

「ちょっ、いいの?こんな堂々とコートに入れて」
「ウチには盗まれて困る情報なんかひとっつもあらへんで」

それって偵察しても何の意味も無いって事なのではー!?

とかなんか珍しくマトモな事考えてる内に、コートが目前にまで来ていた


「おーい、跡部ー、青学の嬢ちゃんが偵察やてー」
「青学?青学が何の用………」
「………あ」
「「「「あ」」」」


その場の全員が沈黙した


こうして私は意外なとこで跡部と運命の再開を果たしてしまった