「母さん、いきなりどうしたの!?」
「何言ってんだ、あたしはお前の母親だぞ?娘に会いに来て何が悪い」
「………どうせ適当に荒らし回って帰るだけのくせに」


ずごばっ


「あだー!!」
「はっはっは、口のきき方には気をつけろよ馬鹿娘」

トランクで殴りましたよこの人!

しかも片手で持ってましたよ!

「で、何だそいつは。一丁前に彼氏でも作ったか?」
「あ、えーと、知り合い?の跡部君です」
「……跡部景吾です。初めまして」

アトーベは軽くおじぎをした

「跡部と言えば、今日は父さんいないの?」
「ああ、原稿〆切が近いらしいからあいつには黙って来た」
「そーかい、そりゃ良かった」

またあほべと父さんが会ったらろくな事になんないからね
心なしか嬉しそうですよアトーベ

「そうだ、土産を持ってきた」
「おみやげ?」
「あんたが好きなメーカーの新作のテディベアとあたしが作ったパン。クロワッサンとバターロール」
「え、ほんと!?」
「ああ、トランクに入れてきた」

母さんはさっき私を殴ったトランクのチャックを開け始めた
テディベアはともかく、パンはかなりぐっちゃになってそうだなぁ


じーっ

じーっ


何で今チャック閉めたん

何があったんだ?トランクの中に

「開けるな!そのまま粗大ゴミとして捨てるぞ!!」
何事!?

私は慌ててトランクを開けた

「………あれ?」

そこにはテディベアを抱きかかえつつクロワッサンをもしゃもしゃ食っている四捨五入して五十歳の父

母さんは黙って父さんをトランクから蹴り出した

「テメェ!どっから沸いて出た!!」
「よーこさん行くとこに俺がいる。可愛い娘がいるとこに俺がいる。それだけだよ」

もきゅもきゅとバターパンを食べつつ寒い事言いやがるよこのオッサン

「ん?」
「………」

睨み合う跡部と父さん
それでもパンを食べる手は止まらない

「と、とーさん、ずっとトランクの中にいたの?」
「ああ。よーこさんが準備してるときにこっそり入った」
「………………」



@こんなでかくて重たい荷物が入ってたら普通は気付く

A生物は飛行機乗るとき検問で引っかかるはず

B母さんは父さんが入ったトランクを片手で持ってしかもそれで私を殴った



等色々ツッコミがあるんだけどどれから突っ込んで良いのかわからない




「跡部ー、こんな事になったんだけどご飯どうしよっか?」
「何なら連れていっても構わない。一人くらいなら平気だ」

明らかに父さんを勘定に入れてないのがわかる









「ラムの塩釜香草焼きでございます」
「いただきまーす」

お皿に綺麗に盛りつけられた高そうなお肉
味はもちろんうまい。めちゃくちゃうまい

「うー、おいしい!」
、お前良い彼氏持ったなぁ」
「だから彼氏じゃないんだってば」

自分の分のラム肉を平らげた母さんが私の皿にフォークを延ばす
私はナイフでそれを制してフォークで残りのラム肉を突き刺し口に運ぶ

母さんは本気で悔しそうな顔をした

「そんなに一口をでかく食うなんて行儀が悪いぞ!」
人の皿に手つける方がよっぽど悪いわ

こっちで小競り合いが起こってる一方、もう一つの方でも小競り合いがあった



「………」

父さんはラム肉の付け合わせのニンジンソテーをそっと隣の皿に移した
隣にはアトーベ

ひとつ、またひとつと跡部の皿に山積みにされていくニンジンソテー


「さっきからうぜぇんだよ!ニンジンぐらい食え!」
「これは子供の食い物だから子供に与えただけだ!!」
「もっとまともな言い訳しやがれ!!」

皿を行ったり来たりするオレンジ色の物体
二人の言い合いは更にエスカレート

「黙って食いやがれこのセザール!!岩引っこ抜いて温泉でも出してろ!!
「うるせぇ!息吐いて地球温暖化に貢献してんじゃねぇよ!!
俺の吐く息は酸素だ!!
光合成してる植物かテメェは!!

果てには場外乱闘となり、ナイフで攻防戦
ぶつかり合ってギチギチと嫌な音を立てるナイフ

黙って食え


かあさんはさらをなげた!

あとべに150のダメージ!
とうさんに150のダメージ!

あとべととうさんをたおした!

かあさんはレベルがあがった!

ちからが3アップ!




「食う時ぐらい大人しく出来ないもんかねこの男共は」

母さんはデザートのブラマンジェをぱくつきながらぼやいた
私も取り敢えず食べることにする


「ん?」
「あんた、学校卒業したら日本に残るんだって?」
「ああ、父さんから聞いた?うん。そのつもり」
「うちにアメリカのプロチームからの誘いの電話が入ってきたんだけど」
「プロチーム?」
「世界選手権とかに沢山選手を送り出してるテニスクラブなんだとさ」
「ふーん」
「少しは考えてみたら?あんたの性格からするとまともな職業には就けなさそうだし」
「実の娘に言う事かねそれ」
「実の娘だから言ってやってんのさ」

ブラマンジェを食べきった母さんはまだ手がついていない父さんの皿を自分のテーブルに持ってきた




そしてその次の日の朝、嫌がる父さんを無理矢理トランクに詰め込んで、母さんはアメリカに帰っていった