最後に決まったのは、私の半ばヤケ気味に打ったスマッシュだった




「ゲームセット、ウォンバイ高槻・ペア。7−6!!」
「あ、危なかったぁー………」
、こっち来い。膝手当してやる」
「は?」
「雑菌入りまくってんじゃねぇの?白血球出てきてるぜ」
「うわー!生々しい表現はやめてー!!」

膝からは白い物がでろでろと。嫌!痛!見たら急に痛!!


豆知識☆すりむいた後に消毒しないと出てくる白いものは体内に侵入してこようとする雑菌を排出すると言う役目を終えた白血球の死骸です。




「うおーん、染みるよー!染みるよー!」
「黙れ。赤チンがうまく塗れねぇだろうが」
「赤チン!?何でそんな物が!?」

せめてマキロンにして欲しかった!染みるけどマキロンが良い!!

「ほら、終わったぜ」
「高槻って妙に器用だよね。羨ましい」
「そんな事言ってていいのか?もうダブルス終わったらしいぜ」
「え、ほんと!?」
「下手したらあと一試合で跡部と付き合う事になるんだろ?」
「違う!デート!ただのデート!!」
「つまんねぇな。んなデートくらいでケチケチすんなよ」
「やなの!」

ふーっ!と威嚇
高槻は気にせず救急箱にマキロンと余ったガーゼを戻した

「あ、そーだ。この事絶対リョマ子に言わないでね!」
「確かに言わねぇ方がいいかもなぁ」
「そうだよ……何でか知らないけどリョマ子絶対怒るもん。リョマちん絶対怒るもん!」
「まあ手塚が勝ちゃ良いんだよ。お前がトレーニング付き合ったんだろ?」
「うん、まあそーなんだけど……」

心配だよー。心配なんだよー
手塚暫く試合してないってか出番が無かったし





「フジコ、試合どうなってんだ?」
「一勝一敗。今はシングルス3でタカさんと樺地が試合やってるよ」

フジコはコートから少し離れたベンチに座って靴紐を結び直していた
確かフジコはシングルス2だった筈

そこでわっと声が上がった

「え、何なに!?」
「試合が終わるにはまだ早いんじゃねぇか?始まって何分経った?」
「10分も経ってないと思うけど……」

フジコと高槻が話し合っている間を通り抜けて、フェンスに張り付いた

「何があったの!?」

コートを見ると、タカさんがラケットを落としていた

「大石!どーなったの!?ねぇねぇ!!」
「波動球の撃ち合いでこうなったんだ」
「この場合、ゲームは……」
「ノーゲームっすね」

相変わらずファンタを飲んでるリョマ子が缶を握りつぶしながら言った
ふてぶてしいなぁ、おい!

「……ノーゲームって事は先に三勝した方が勝ちなんだからあと二回勝つって事でもうこれ以上負けらんないって事で……」
「それくらいの引き算は出来るみてぇだな」
「何だとオメェ!馬鹿にしてんのか!貴様のポケットにチンジャオロース忍ばせてやるぞコルァー!!
「落ち着け!周りの奴らが皆こっち見てるぞ!!」

バタバタしてたら後ろから高槻に羽交い締めされた
確かに通行人が皆こっちを見てる
脇役のくせにタダ見か!

「見せもんじゃねぇぞコラー!!」
「いや、どっちかってーと見せ物だぞお前」
「何ですとー!?」
「………何やってんの」

いつの間にかフジコが試合を終えてました

「か、勝った?」
「うん。が暴れてる間にね」

言葉にトゲがありますよフジコさん!!
でもまぁ勝ったのか。よしよし。あと一勝だね!

先輩」
「うぉ?」
「アップ付き合ってくれません?」
「アップ?」
「試合終わったんでしょ?」
「うん、まあ。でもリョマ子控えじゃん」
「これでもし手塚部長が負けたら俺が試合やる事になるっす」
「手塚が負けるですと!?」

負けはいけないよ!負けたらデートだよ!
せめて応援だけでもしないといけないよ!!

「え、えーと、この試合見たいからちょっと……」
「後で乾先輩がビデオ見せてくれるっすよ」
「あー、でも……」
「……また何かあったんすね」

鋭い!!

「いーえ、何もありませんよ。この赤チン賭けてもいい
いらないっす
「いーから行って来いよ」
「高槻……」
「跡部サマとの賭けは俺が見といてやるから」

うわー!躊躇無く言いよったこの人ー!!

「……賭け?」
「さーリョマ子アップ行こうかー。可愛い先輩が相手してあげるぞー」」
「先輩!賭けってどういう事っすか!」
「かけ?かけそばよりはとろろそばが食べたいなー」
「ごまかし切れてないっすよ!」

暴れるリョマ子をずるずると引きずりながら、私はコートから離れた




「先輩」

ぱこん

「先輩、賭けって何すか」

ぱここん

「ねぇ先輩!」
「うるせぇー!!」

ぱこっ

「あ痛っ!」

リョマ子のおでこにボールを当ててみた

「いいかリョマ子!私だって人の子!飯も食うしトイレだって行くし寝るし起きるし賭け事だってする!!」
「賭け事はしなくていい!」
「うるせぇ!お前のしつこさは高濃度茶カテキン並みか!
日本茶飲まない先輩にそんな事言われたくないっす!
「リョマ子のくせに反抗すんな!」

この間にもアップをかねてボール打ち合ってます。ええそりゃあもうものすごい速さで
アップなのにこんなに疲れてどーするよ

「さ、そろそろ戻るよ」
「先輩」
「何」
「賭け事って何賭けたんすか?」
「内緒。まぁ手塚が勝てば良いのですよ」

コートに戻ると、大きな歓声が上がった

「え、決着ついたの!?」
「まだ。でもすごい事になってるよ」
「36−35、跡部リード!!」

試合はタイブレークで延長戦
って、これ終わるの?
さっきから試合のスコアつけてる乾のノートがいっぱいになりそうですよ?

「ゲームセット、ウォンバイ氷帝学園跡部!7−6!!」
「えっ、あれっ!?」
「試合終わったよ。跡部サマの勝ちだ」

跡部の勝ち?

勝ち


勝ち………





「ち、ちょっと!何か抜け出てきてる!何か煙っぽいもの出てきてるから!!」
「んがっ!あ、フジコ!大変だ!今昆布みたいなマント着て顔に赤くて丸いものが三つついた丸顔で手がドラえもんな奴に顔を食えって言われたよ!!
「それアンパンマンだから!しっかりしてよ!!」
ブルーベリージャムおじさんに作られたイチゴジャムパンマンって言ってた!
ブルーベリージャムじゃないの!?
ふざけんなって赤くて丸い部分を殴ったらイチゴジャムが飛び出てきた!!
ジャムパンなのに中に入ってねぇのかよ!

状況にいてもたってもいられず高槻までもがつっこんできた

「ま、負けた……負けた………負けた………」
「大丈夫だよ。今出てるのは越前だ」
「あかん!あかんねんフジコ!!」
『薔薇は薔薇は、気高くー咲いーてー、薔薇は薔薇は、うつーくしーく散るー』
「………の携帯?」
「うぃうぃ」

うんうんと頷き、上着に着てたジャージのポケットから携帯を出す

「何でベルばら?しかも着うただし」
「全部個人設定してあるんだけど、えーと、この着メロは確か……」

新着メール開封




『明日午前10時、青春台の駅前で待つ。楽しみにしてろよ』





氷帝側のベンチを見る

さっきまで座っていた跡部の姿が無い

多分何処かに隠れてメールを打ったんだろう















ノオォオオォオォォオ!!!!!!


絶叫とも雄叫びとも取れる私の叫びは、コート全体に響き渡った