先輩………あれ?」
「私は……ステレオとモノラルの違いが分からない女…」

ちょっとメーテル風

リョマ子は手にファンタとミルクティーの缶を持っていた
うぅむ、私がミルクティー好きな事を知っているとはこいつなかなかやるな
オンナゴコロってぇもんをわかってるね。

「メーテルって……読者世代に分からないようなネタはやめて下さい」
「え、わかんないかな?」
「て言うか先輩、何で起きてるんですか?」
「ぐはははは、私があれしきの睡眠薬で眠るとでも?」
「何で笑い方が妙に男前なんすか」

おほほほとかの方が良かったかな?



「で、ここはどこ?」
「屋上っす」
「おお、そう言えば見晴らしがいい感じ」

なんか作りは青学そっくり
まあ何処の学校も屋上なんて同じだろうけど

「………もう一つ言ってもいいっすか?」
「ん?何ですかぃ?」
「さっきから先輩の隣にいるのは……さっき言ってた人っすよね」
「うぃ。ダブルスの仁王雅治君ですねぃ」

起きたらいたんだよねー
部活の時間なのに制服のままで

「こいつは誰じゃ?」
「越前リョマ子。プリティーボーイ」
「確かに可愛い顔しちょるの」
「でしょ?思わず写真に収めて売りたくなる可愛さでしょ?」
「それは可愛さとは違うじゃろ」

可愛いと言われて不機嫌なリョマ子はニオをきっと睨んだ

「アンタテニス部なんだよね?さっさと部活出てきたら?」
この現代社会に流された子供がー!クッキー型の刑だ!!

リョマ子のほっぺにクッキー型を押しつける
右のほっぺにハート型、左のほっぺにはクリスマスツリーの形がついた!

「い、いきなり何するんすか!」
うるせぇ!インリンだっていつでもM字開脚している訳じゃないんだ!だからテニス部員だからっていつだって部活に出るとは限らない!!
「さすがに意味がわからんぜよ」

そんな!弁護してやったと言うのに!!

「でも部活出たらいいんでない?大会近いっしょ?」
「真田がピリピリしてて行きたくなか」
「何でピリピリしてんのさ」
「青学には絶対に負けたくないんじゃと。毎日毎日朝も昼も夕方も夜も平日も休日も練習入れられたらそりゃサボりたくもなるぜよ」

うーん、まあ確かに。私も今こうして現在進行形でサボってる訳だし

先輩、カメラ終わったっす」
「お、マジで?」
「眼鏡の先輩……柳生、とか言う人がさっき屋上に来てたんでそれで10枚、それと今その先輩を15枚撮って終わりっす」
「でかした!これで生きていけるわー!!」

よーしよしよし、とムツゴロウの声マネをしながらリョマ子の頭を全力で撫でてやった

「俺の写真は俺にも分け前入るんかのぅ?」
「もちろん入りませんよ」

いちいち入れてたら分け前少なくなるじゃないですかぃ

「そうか……したらちょっと付き合え」
「んぉ?」
「どうせこのままおったら真田に部活連れ戻されて終わりじゃ。そんなら真田で遊ばして貰うぜよ」









用務員室からこっそりリアカーを借り、私とリョマ子はそれに乗っていて仁王はそれを引く準備をしている

「ねー、ほんとにやんの?」
「今日は絶対部活行かないって決めたんじゃ」

そんな決意いらないよ!部活行けよ!人の事言えないけど!

「そんじゃ、いっちょ派手にやるとするかのう」

リアカーは音を立ててテニスコートへと走り出した





テニスコートの方へ向かうと、真田がいた
真田はテニスコートの横で柳と話し込んでいる

「取ったぁ!」

仁王がすれ違いざまに真田の帽子を取った
そのままガラガラと派手な音を立てて遠ざかっていくリアカー

「仁王!?」
「帽子は貰ったぜよ!」

帽子を私に向かって投げてリアカーのスピードを上げる
私は帽子をキャッチして落とさないように被る。ぶかぶか。頭でかいよサナーダ

「いやー!!なんか初期のノリ!初期っぽい!!

あの頃は若かった!カルボナーラとかドテチンとかギター侍とか!!

「あの頃はリョマ子も可愛かったのにねぇ!」
「どういう意味っすか」
「今のリョマ子は試合しろだの暴れ回るなだの愛されるより愛したいだのお酒は温めの燗がいいだの恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲームだの!!
後半三つは絶対に言ってないっす!

言い合いしていると、後ろから真田が追ってきた

「仁王!真田が来てる!!」
「これ以上スピード上がらんぜよ!」
「よっしゃ!リョマ子の出番ね!」
「は!?」

私はリョマ子を担ぎ上げ、思いっきり真田に投げ飛ばした
衝突して倒れこむ真田とリョマ子
リアカーはリョマ子を降ろして、もとい落として更にスピードを上げる

「仁王!坂道あるよ!飛ばせ飛ばせー!!」
「飛ばせっちゅーか止まらんぜよ!!」
「げ、マジで!?」

ものすごいスピードで坂道を下っていく


ごしゃっ


うわー!!轢いた!今何か轢いたよ仁王!!ヨード卵光みたいな頭の人轢いたよ!!!
「ジャッカルじゃ!あいつなら死なん!!」
「何でんな事が言い切れウギャー!!!
「ぎゃっ!!!」

リアカーがでっかい石に躓き、私はその拍子に派手に前に吹っ飛ぶ
そしてその拍子に誰かと衝突した

「あー痛たたたぁ………」
「おい!いきなり何……げ!」
「あー!キリキリマイ!!ひっさしぶりー!」

私がぶつかったのはキリキリマイだった
仁王はそのまま止まらず……っつーか止まれず坂道を下っていった
もう姿が見えないよ!帽子私持ってんのにどーすんだよ!!

「何でアンタがここにいるんすか!あんた青学でしょう!?ここ神奈川っすよ!?」

いきなり肩を掴まれてがくがくと揺さぶられた

「べつにいたっていーじゃん!」
「良くない!前は勝手に着いて来て勝手に帰ったくせに!!」
「気分だよ!全ては気分次第だよ!!」
「気分で事を終わらそうとするんじゃねぇ!納得のいく説明をしろ!できなきゃ青学帰れ!!」
「なんだよ!青学青学って!青学だろーが立海だろうがどうだっていいじゃん!」
「どうでもよくねぇよ!!」
関係無い!関係無いぜー!!僕とあなたが違っても!そんなことはもう、かんっけーないっ!!
昔のCMのパクリはいいから説明しろー!!









「てかさ、何でキリキリマイはそんなにお怒りですの?」

私が暴れたキリキリマイに腕拉ぎ十字固めを喰らわせながら聞くと、キリキリマイは余計に不機嫌そうな顔をした

「全部あんたが悪いんだからな!!」
「全部ですか」
「ああそうだ!!」
「全部と言う事は十割、一滴も残さず全て私が悪いと言う事ですか」
「あ、ああ」
「余すとこ無く全てですか。1ミクロの余地もありませんか。あなたミジンコ程も悪くないですか
「こっちが悪い気してくんじゃねーか!やめろ!!」

だって悪いことなんもしてねーじゃん。キリキリマイ限定だと

「何があったか言うてみんしゃい。誰にも言わんけぇ」

仁王口調でそう聞くと、キリキリマイは盛大に溜息をついて話し出した





「………アンタと会ってからさ、俺ずっとアンタの事が気になってたわけ」
「何?告白?断っても良い?」
「違ぇよ!黙って聞け!!」

まあ!何て言い草!!


「それで、月間プロテニスの人に話聞いたり、それで教えてもらったテニス雑誌のアンタの記事見たりしてた」
「何?やっぱ告白?断っても良い?」
「いいから黙って聞け!自惚れんな!!」

まあ!何て暴言!!



「その雑誌って、俺も載ってたから編集の人に貰えたんだよ。それでアンタの記事学校で見てたら……」








『何じゃ赤也、何でれっとした顔でエロ雑誌見とうと』
『は!?俺普通にテニス雑誌見てただけじゃないっすか!』
『ほー、青学のか。確かにお前の好きそうなタイプじゃのぅ』
『ちょっ、何勘違いしてるんすか!』
『仕方なかのぅ。俺も後輩の恋っちゅーもんを応援したるかの』
『仁王先輩!茶化すのもいい加減に……』
『お、やぎゅー!!赤也が青学のとなー!!!』
『仁王先輩!声がでかいっす!ここ教室っすよ!!』








「それから俺のファンクラブが解散、女子の告白や放課後のタオルやスポドリのプレゼントは激減……」
「………それで私が悪いと」
「そうだよ」

ふん、と不機嫌そうにそっぽを向くキリキリマイ

「ねーキリキリマイ、それなんて言うか知っとる?」
「は?」




「世間一般ではね、そういうの『さかうらみ』っちゅーのよ」




キリキリマイはぽかーんとした顔をしていた


「あ、もうこんな時間!『さんすうずいずい』の再放送が始まるわ!!」


私は立ち上がり、被っていた真田のおっちゃんのぶかぶか帽子を赤也の頭に被せた


「その帽子真田のおっちゃんに返しといてね!そんじゃ、まったねー!!」


ダッシュで坂道を駆け上って、私はその場を後にした





結局リョマ子と桃を見つけるのに手間取って、さんすうずいずいの再放送には間に合いませんでした