「ねみだぁ〜れて、かくれぇ〜やど、つづらぁ〜おりぃ、じょおれぇんのぉたぁきぃ〜♪」
「………、歌うのはいいが選曲を考えろ。サーブ練習中にこぶしを効かせて『天城越え』を歌うな」
「だって良い歌じゃん。乾だって知ってるっしょ?」
良い歌はいつ歌ったって良い歌なんだよ!
「越前、準備は出来たか」
「かくぅ〜しきれないぃ、うつ〜りががぁ、いつしかぁあなたにぃ〜いぃ、しみついたぁ♪」
乾に中断されたから最初から歌い直し
てかこっち見てないよ乾!改めて歌い直してんだからこっち見ろよ!視聴率0%かよ!!
あ、でもフジコとか高槻とかエージとかその他部員とかが遠目でこっち見てたりするから視聴率80%くらいはありそうね☆
「、これから越前の付き添いでスポーツショップに行ってくれないか」
「だれかにぃ〜とられるぅ〜、くらぁ〜いならぁ〜………え?」
「これから越前がランニングでガットを張替えに23.8キロ先の大型スポーツショップに行くんだ。お前は自転車で良いから付き添っていけ」
「ヤダ。メンドイ」
「どうせ暇だろう?」
カタコトで喋ったのに突っ込みも入れずにこの言い草!どうしてくれようか!
「あたいだって部活したいもん!」
「たまには後輩に付き添ってやれ」
「やだやだ!大会だって近いもん!!」
「どうせまともに練習する気も無いなら、何処にいたって同じだろう」
「………………あなたをころしてぇ〜、いいですかぁ〜♪」
「殺される覚えも無いな」
今日の乾はなんかすっごく辛辣なツッコミだわ!!
「青学ー、ふぁいおっ、ふぁいおっ!」
結局、myママチャリ・ガリンコ号に乗り、リョマ子に付き添う事になった
流氷の代わりに人間を轢き、その上を横断してきたナイスガイ。チャリンコのベルが何故か二個ついてます
※ガリンコ号………オホーツク海を横断する船の名前。流氷の間をすいすい進む
「ほらーリョマ子!キリキリ行くよ!スピードアップ!あと1時間で着かなかったら罰ゲームね!!」
「ば、罰ゲームって……何すか………」
チャリンコのスピードに合わせて走っているのでリョマ子がちょっと疲れ気味だ
でもまだまだ飛ばすよ!
「あと1時間で着かなかったら、リョマ子のサクマドロップスの中身を全部ハッカにします」
「何で!?俺サクマドロップス持ってないっすよ!」
「サクマドロップスと言えば思い出すねぇ……火垂るの墓」
「あぁ…あの日本のアニメっすか」
帰国子女でも知ってるか!やっぱジブリは偉大だねぇ。
「『にーちゃん、何でほたる死んでしまうん?』って。あれ有名だよね」
「見た事無いけど俺もそれ、聞いた事あるっす」
「あとあれね。『にーちゃん、このおはじきお食べ』」
「………ん?」
リョマ子が眉を顰めてこっちを見る
私はノリノリでモノマネをする
「『せつこ、それ、おはじきやない。ドロップや』
「先輩、逆っす!そのせつこ幻覚見えてるっすよ!!」
「お腹すいてるからさ。幻覚の一つや二つ見えるって」
「そんな無理矢理映画の設定とあわせようとしなくていいから!!」
「いや、私が」
「幻覚見えてるんすか!?」
「ふぃー、これでやっと帰れるねぇ。疲れた疲れた」
「先輩は自転車だから疲れてないじゃないっすか」
「馬鹿野郎!たっぷりもっさりボケ倒しの喋り倒しだったから疲れてんだよ!」
「そう言うの自業自得って言うんすよ」
か わ い く ね ぇ ー ! !
「青学戦?ああ、あんま興味無いぜ」
どっかから、そんな声が聞こえてきた
私とリョマ子は顔を見合わせる
「テメェはショックだよな、赤也?手塚を先に潰されちまったんだからな」
赤也……あかや……なんか最近とてつもなく聞いたような気がしなくもない
「あかや……」
「立海の切原赤也…じゃないっすか」
「あ」
キリキリマイって呼んでるからすぐに思い出せなかったよ!!
「ほんとあとは雑魚ばっか。本当のテニスが出来んのってあの人位でしょ」
うおーなんかむかつくー!!
キリキリマイのくせに!キリキリマイの分際で!!
私とリョマ子は同時に駆け出した
キリキリマイと色黒の人は一緒に階段を上ってる途中だった
「ちょっねとぇ!調俺子乗にもって本当んじゃのテニなス教えていくんなよい!!」
被ったー!!!
折角の登場シーンなのにリョマ子とセリフ被ったー!!!
「リョマ子!こういうとこは先輩に譲るもんでしょ!!」
「先輩がいきなり喋りだすとは思わなかったんす!」
「あたしがいきなり喋りだすのはいつもの事でしょ!何年付き合ってると思ってんのさ!!」
って、あれ。よく考えたら数ヶ月しか一緒にいないや
「げっ、!!」
「『げっ』て何さ!喜べよ!動きで表せよ!!」
「ねぇ、そこの偉そうな口叩いた人。本当のテニス、教えてよ」
私の言葉を遮って、リョマ子がキリキリマイを睨んだ
すると、キリキリマイはにやりと笑った
「高くつくかもよ」
「ふーんふーん。なにさ。あたしだって試合したいのに」
「女に赤也の相手はきついと思うぜ」
「うっさい。スカイブルーの絵の具頭に塗ってピータンにすんぞこのハゲ。剃るぞ!」
「いや、剃る髪がある時点でそいつはハゲじゃねぇだろ」
「そんなつるっつるの頭の前にはそんな常識は通用しないのよ」
しゃー!!と威嚇してみる
「それよりも、後輩の心配しなくていいのか?どんな弱小テニス部の部員でも赤也の話くらいなら聞いた事あるだろ?」
「知ってるよー。良い噂も悪い噂もね」
「それを承知で赤也にあんな口叩くんだからたいしたもんだ」
「あたしの事知ってんの?」
「知ってるぜ。良い噂も悪い噂もな」
まねっこ!!
「『』の名前が赤也の口から出てこない日は無いぜ」
「うぃ?あんな嫌そうな顔してたんに?てかあたしの名前まで知ってたんだね」
「嫌でも覚えるさ……けど実際顔を見たのは初めてだ。意外と赤也も面食いだな」
一度リアカーで轢いたことあったんだけどね。いや、仁王が。あたい悪くないからね?
「えーと、あんたは……」
改めて見ると意外と美形なんだよねー
ハゲだけど。いや、ハゲだからこそかっこいいのかも
「ジャッカル桑原だ」
「じゃあジャッキーだね」
「は?」
「だからさ、あだ名。ジャッキーで決定」
「普通にジャッカルって呼べよ!」
「うっさいこのハゲ!頭すり下ろすぞ!!」
しゃげぇー!!と更に威嚇する
「ってジャッキー、さっきから何で時計持ってんの?」
「試合時間を見る為だよ」
「今何分?」
「今は……9分!?」
「何?普通じゃん」
「赤也は1ゲームに9分もかけないんだ」
あ、そういや聞いた事あるかも
今大会の最速試合がキリキリマイだってなんかに書いてあったような
14分だったかな。確かに14分で試合を終わらせるなら1セットで9分は相当遅いかも
「そろそろじゃない?赤目モード」
「………そこまで知っていて止めないのか?」
「止めてもいいけど止めない。リョマ子はボコボコにされても勝つよ」
だってリョマ子強いもん。絶対に負けないさ!
コートを見ると、キリキリマイがボールを持っていた
1ゲーム取られちゃったのか!
「正直ここまでやるとは微塵も思ってなかったよ、越前リョーマ。でも――――バイバイ」
「まずいっ!ナックルサーブだ!!アイツ大会を3日後に控えマジで相手選手を潰す気か!?」
キリキリマイがサーブを打った
そのボールはリョマ子の膝に当たる
「おい!止めないのか!!」
「止めて欲しいの?」
「後輩が潰されても良いのか!?」
「そんな止めたいならあんたが止めればいい。私は止める気無いから」
ほんとは割って入って止めてやりたいけど、何となく止めちゃいけない気がする
まだリョマ子右手でテニスしてるし、大丈夫、だと思う
飛び出しそうになる気持ちを押さえて、ぐっとジャージの裾を掴む
「おい、やっぱり……」
ジャッカルが止めようとしたその時、確かに私は聞いた
「You still have lots more to work on…」