試合は一瞬だった
一瞬だったって言うより一瞬に見えた
「………勝ったね」
「……………ああ」
ジャッカルも相当驚いてるみたいで、開いた口が塞がらないといった感じだ
「お前、知ってたのか?アイツがこんな事出来るって」
「まさか。知り合って3ヶ月だよ?知ってる訳無いじゃんハゲ」
「それなのによくあそこまで無茶させたな」
「戦う男達を生暖かい目で見守るのがいつの時代でもヒロインの役目ってもんでしょ」
私ってばヒロインの王道を行っちゃってますねぃ。このやろ!かわいいな自分!けなげだな!
「って、あれ?」
リョマ子が私を無視してコートから出て行こうとしてるではないですか!
ヒーローはヒロインと仲良しこよしではないのですか!
「ってな訳で喰らえー!ドロップキーック!!」
「ヒロインがドロップキックを喰らわすかー!!!」
ジャッキーの突っ込みを無視して、私のドロップキックは綺麗にリョマ子の背中に決まった
そしてそのままごしゃごしゃとなだれ込む
「リョマ子!先輩を置いてくなんてアレだぞ!もうアレだ!泣くぞ!泣いちゃうぞこのやろー!!」
胸座掴んで起こすと、リョマ子が老けてた
あれ?
こいつリョマ子じゃねぇぇぇぇ!!!
いやでも確かにドロップキックはリョマ子目掛けて飛んだ上にきちんと当たったし
「え、あれ?リョマ子は!?」
「こっちですよ」
リョマ子は誰かに抱えられてすぴょすぴょと寝息を立てていた
って立海大勢揃いじゃないっすか!!
え、じゃあこの蹴り飛ばした老け顔の人は
「弦一郎だ」
うぁぁ!やっぱりぃぃぃ!!
ってかこの糸目人の思考読みやがって!
「可哀想に……至急病院に連れて行くべきです」
「言われんでも連れていくけんね!リョマ子帰せぃ!!」
「いえ…真田君の事です」
「そっちはそっちでなんとかしといてや。これで痛み分けって事で」
「こっちの方が相当痛手だと思うがのぅ」
うん、まあ、サナーダ泡吹いてるしね☆
「そんじゃ立海の皆々様ごきげんよう!試合会場でお会いしても私の事は知らない振りしといてくださいましー!!」
私はママチャリにリョマ子を乗せて猛スピードでその場を後にした
にしても、さっきの見たらちょっと。ちょーっとばかしだけどリョマ子に興味が沸いてきた
やっぱ口で言う分実力が伴ってるって事ですか。うんうん
「ん……?」
「お、リョマ子!おはよー」
「…ここは?」
「あたくしのおうちさぁ!」
因みに寝かせてるとこは床さぁ!
汗臭いままベッドに乗せたくなかったんだもん。文句あっかこんにゃろい
「試合は……」
「あ、だいじょーぶ。立海の人達がわらわら集まってきたけど揉め事起こさずになんとか逃げてきたから」
うん。七割くらい嘘だけどさ
「いや、そういう意味じゃなくて…」
「そういう意味じゃなかったらどういう意味さ」
「……いや、何でもない、っす」
なんだこいつ!気になるじゃねぇかぃ!
「先輩」
「あいよ」
「あの……さっきの事、内緒にしておいて貰えないっすか」
「ん?試合の事?大石部長代理様に?」
「っす」
リョマ子がちっちゃく頷いて返事をした
「んー。いいよ。でも一つ条件があるですよ」
「何すか」
「このサクマドロップのハッカ全部食べてくれたら黙っててあげる」
「………ほんとに持ってたんすね、サクマドロップ」
ハッカはおいしくないよ!たまにレモン味と間違えて食べちゃうよ!見た目似てるんだよ!
「まあバレそうになったら上手くサポートしてあげっから大船に乗った気でって言うかタイタニックかノルマントン号にでも乗った気でいてちょーだい!」
「それ、どっちも沈むっす」
そして、関東大会決勝戦が始まった
「キヨー!全国出場おめでとーう!!」
ダッシュで試合に勝ったキヨの方へ向かうと、キヨが私に気付いて笑顔で手を振ってくれた
そしてキヨに飛びつくとそれ以上のスキンシップで返してきたので軽く張り倒して一通りのスキンシップを終える
「ちゃん!見てくれてたの?」
「うんうん!すごかったねぇ!」
「それじゃ、決勝も見に行かないとね」
「見てくれるの?」
「そりゃ、誰もが見たがってた組み合わせだしね」
「絶対勝つから!やっぱすっきり優勝して終わりたいよね!!」
二人でワーキャー騒いでると、急に体が浮いた
持ち上げられたのはさん。持ち上げたのは高槻
「ちょー、ちょっ!ちょっとぉ!!何すんだこのヤンキー!」
「流石だな、貧乳な分体が軽い。という訳で試合だ。行くぞ貧乳女」
失礼な!!
「キヨー!キヨスミー!キヨ助ー!たーすけてぇーい!!」
「頑張ってちゃん!試合には応援に行くから!!」
キヨまでもが傍観者モードに!!
「下ろせこの悪人面!むしろ悪人!!」
「東洋一の善人である俺に何を言う」
そうやって言う顔からして悪人くせぇ!!
「只今より、関東大会決勝戦、立海大附属対青春学園の試合を始めます!!」
こっち側の人達は皆ピリピリとした感じだ
おーいし胃薬飲んだのかな。すげー顔色悪いんですけど
「………、」
「んぉ?」
右を向いて大石の芸術的な顔色を観察していると、左側からフジコに肘でつつかれた
「なんか、おかしくない?」
「は?」
「ほら、立海のメンバー全員、越前を見てる」
フジコにそう言われ見てみると、皆がリョマ子を睨んでた
絶対この前の事が原因だよ!!
や、やばい!バレる!どうにかして視線をこっちに向けさせないと!!
「って!何やってんの!!」
「え、えっと、マルちゃんの焼きそば弁当作ってる」
湯切り口からお湯を捨てちゃいけないよ!付属のスープの素を入れたマグカップにお湯を入れるんだ!
「北海道限定だから北海道に行かないとこれ食べられないんだよ!」
「ここ東京なんだけど!」
「煮えたぎるお湯で焼きそば作ってそのお湯でスープ作るからすぐ飲むと間違いなく舌火傷するんだよ!だからスープは食後!焼きそば詰まった時用に冷たいお茶を用意しておくべきだね!」
「いいから!そんな詳しい上にマイナーなネタはいいから!!」
「かと言って焼きそば食べ終わった後さぁスープが冷めただろと思って飲むとやっぱりまだ熱いんだよ!熱くないと思ったら大間違いだよ!スープがテロを起こすんだよ!!」
私がフジコとギャーギャー騒ぐと、思惑通り立海の人達はこっちに視線を向けた
アレだね!皆私に釘付けだね!!トップスターだね!
それから色々あって、ダブルスの試合が始まります
「んー。ジャッキーとあの赤頭のフーセンガム、強いのかな」
「立海の正レギュラーっすからね……強いと思うっす」
「えー、桃ちゃーん。んな事言って勝てんの?」
「勝つしか無いじゃないっすか………って、何食ってんすか?」
「北海道銘菓白い恋人」
「食うのは良いっすけど、食べクズボロボロこぼしてるっすよ」
「しょうがないじゃん。一口で食うには微妙にでかいし。あ、そーだ。九州の方には赤い恋人ってのがあるんだって」
赤い恋人って事はアレかな。めんたいことかかな
「、俺らも試合始まるぞ」
「はいはーい」
私は飲み物をぐっと一気飲みした
けぷっ、と音がする
「汚ねぇぞ」
「しゃーないじゃん。炭酸飲んだら出るんだもん」
「………つーか今飲んでた激しく身体に悪そうな色の液体は何だ?」
「え?知らないの?ナポリンだよ。北海道限定」
「…今日のお前は北海道の回し者か何かか?」
「味はね、物足りないコーラって感じかなぁ」
甘ったるいからあんま好きになれんね、私は
「これから、ミクスドの試合を始めます!」
相手は背の高い女の子とキリキリマイ
こいつシングルスでフジコとも対戦するくせにミクスドにも出てんのかー
「アンタ、強いの?」
キリキリマイが私にそう言った
「……わかんね」
「変な奴。自分が強いかどうかも分からないのかよ」
「んー。最近まで自分は強いと思ってたんだけどね。アレ見てからちょっと複雑な気持ちナリ」
「あれ?」
「見たじゃん。リョマ子のアレ」
私がそう言うと、小馬鹿にしたような笑いが一気に真面目な顔になった
「んじゃ、話はここまで。お互いがんばろ」
私が手を差し出すと、キリキリマイは握手もせずにエンドラインまで歩いていった
「……原、だ」
「分かってるわよ」
『なお4位の六角中、5位の山吹中、6位の緑山中までが全国へ駒を進めます。関東大会での関東勢の活躍を祈りつつこの大会を――――――』
皆が関東大会優勝という結果に大いに盛り上がる中、俺はいつもの過剰で過激なスキンシップが無い事に気がついた
とりあえず、俺は行方を知ってそうな不二先輩に声をかける事にした
「不二先輩…先輩は何処行ったんすか」
「え?………そう言えば、さっきから姿が見えないな」
不二先輩も不思議そうに辺りを見回した
やっぱり先輩の姿は無い
「た、大変だー!!!」
いつも以上に顔色を悪くしながら大石先輩が走ってこちらに駆け寄ってきた
「何なに!?何が大変なのおーいし!!」
「がいなくなったんだ!!」
「………何処かで道草くってんじゃないっすか」
「けど、スコアボードにこれが挟まってて…」
『たびに出ます。さがさないでください 』
「………確かに、これの字だ。漢字が殆ど書けてない」
「いつもの冗談じゃないっすか?」
桃先輩が口調の割に、真面目な顔をする
「あいつ、もう戻って来ねぇかも」
はっきりと、高槻先輩がそう言った
「高槻?何言って………」
「負けたんだよ。俺達」
いつもの表情とは違う、辛そうな表情
「あいつら、ばっか狙いやがって…俺は何も出来なかった」
「でも、先輩ってすごく強いって聞いたんすけど」
「最初は、なんとか対応し切れてたんだけどな。途中から顔面から足までボコボコにテニスボール当てられて、な」
俺は、切原の充血した目を思い出した
「結果は7−5で負け」
「…その時、先輩は?」
『………』
『ごめん。ちょっくら傷洗ってくるわ』
「駄目だ、携帯も繋がらない」
「打つ手無し……か」
「それじゃあ、全国からのミクスド枠はどうすんだよ!」
「戻って来るっすよ」
俺はいつの間にか声を出していた
「替えは必要無いっす。青学のミクスドレギュラーの枠は、先輩の物でしょ?」
にしても、先輩は一体何処に行く気なんだろう