「てめぇは体中傷だらけにして一体何がしてぇんだ?」
「名誉の傷よ。名誉の傷」
包帯ぐるぐるでばんそうこうべたべたできもちわるー
「つーかべっちんすげー不器用なのね」
「うるせぇ。黙ってろ」
べっちんって呼んだん初めてなんになんもツッコミくれんかったよ!
って、どうしてこういう事になってるのかと言うのを説明せんといかんね
えーとえーと、あれは三十分ほど前にさかのぼります。生まれた川に帰るサケ並にさかのぼります
キリキリマイのチームと試合をして、体中ボコボコにされたさんは傷を洗いに水道へ。高槻はベンチに戻る事になりました
『おじいさん。わたしはすいどうできずをあらってこようとおもうよ』
『やあおばあさん。しんぱいだなぁ、きをつけて』
そんでもって傷をみゃーみゃー洗ってぎゃーぎゃー言うてたら、べっちんがやってきました
『やあおばあさん。そんなところでなにをしてるんだい。あーん?』
『きずをあらっているのよ。みてわかんないかしらこのすっとこどっこい』
『すっとこどっこいはしごだよ』
『やかましい。みみのあなにきんうえつけてきのこさいばいするわよ』
そしてなんだかんだで青学ベンチに戻りづらい私はべっちんに傷の手当をしてもらうことにしました
そして冒頭に戻るわけです
「終ったぜ」
鋏で包帯をシャキンと切って、べっちんがそう言うたのですが
「べっちんこれは大げさすぎるよ。動けねぇよ」
「あーあー、またえらい事になってんなぁ」
べっちんの後ろからにょいん、と顔を覗かせたのは氷帝の忍足だった
「これじゃ動けへんやろ。やり直したるわ」
「うぃ。そーしてくれると助かるなりよ」
忍足が包帯をめりょめりょ剥がしてガーゼを取り出したりしていると、何もする事がなくなったべっちんが話し掛けてきた
「お前これからどうするんだ?」
「どうするって?」
「ミクスドをやめるのかって聞いてるんだ」
「なして。一回負けたくらいでなんでやめなくちゃいかんの。幸い、ミクスドは男子団体のおまけだから負けたって他の人が勝ちゃ進めるし」
「じゃあ、このまま戻って練習メニューの組み直しだな」
「うんにゃ。旅に出ようと思います」
私がそう言うと、べっちんと忍足の動きが止まった
忍足に至ってはテープを鋏で切る途中でぴったり止まってる。器用だなぁ
「旅って何や旅って!!」
「え、そのまんま」
「訳わかんねぇよ!彦●呂の芸風並に訳わかんねぇよ!!」
さん『炊き込みご飯のアロマテラピーや!』とか言わないもん!
「何でそんな突飛な考えが浮かんだんや?」
「会いたい人がいるんよ。南の方にいる人でね。だからこれから家帰って適当に荷物まとめて出掛けるつもりです」
丁度言い終わると、忍足の手当の方も終ったみたいだった
「ほら、完成や」
「ども」
うんしょ、と反動をつけて立ち上がると、さっきよりも動きやすかった
器用だなぁ。器用メガネだなぁ
「そんじゃ、また機会があったら会いませう!」
「機会があったらじゃねぇ。絶対帰って来い」
「はいはーい」
なんだかんだで過保護だなぁ、べっちんは
「財布とー、クリリンのキラキラカードとー、ペットボトルのお茶とー、ケータイとー……んぉ?」
携帯を見たら、着信履歴がもっさりたっぷりばっちりしっかり入っていました
フジコ、高槻、エージ、大崎、フジコ、リョマ子、高槻、大崎、エージ、フジコ、フジコ、高槻、フジコ……
すごいなぁ。キリが無いなぁ
とりあえず、一番最後に掛けて来たフジコに電話してみっかな
ぽぺぽぺと履歴から電話を掛けると、フジコは二回目のコールで電話に出た
『もしもし?!今どこにいるの!?』
「家にいるけど」
『皆心配してるよ。一度こっちに顔出したら?』
「うんにゃ。これから旅に出るですよ」
私がそう言ったら、フジコはべっちんや忍足と同じ様な反応をした
『………何言ってるの?』
「いや。文字通り。決心が鈍ると困るのでこのまま出発するですよ」
『それじゃあ試合はどうするの!?これから全国大会だってあるんだよ!?』
「だいじょーぶ。全国大会始まるまでには戻ってくっから」
『間に合わなかったらどうするの!?』
「………………ドタキャン?」
『ドタキャンで済む話じゃ無いよ!!』
「やかましい!ロシアの小娘共に出来て私に出来ない物は無い!!」
『古いよ!いい加減許してあげなよ!!てかの方が年下だし!!』
「いんや!日本のグラサンをあそこまでいっぱいいっぱいにした罪は重いんだ!市中引き回しの刑だ!!」
『市中引き回しも古いよ!何時代の話!?』
「テメェうっせぇよさっきから!売り出し中のアイドルみたいなテンションで喋るな!テメェのキャラが崩れる!乙女が号泣する!!」
もっとクールなキャラじゃねぇのかいお前さん!
「とにかく!これから出発すっから!そんじゃ!」
『あっ!ちょっと、!待って!待ってってば!待って!ちょっ、ちょ、待てよ!!』
ぶつっ、と強制終了してみる。そして携帯の電源もぱっつり切ってみる
………うーん、フジコの最後の言葉はちょっとキム●クのモノマネくさかったなぁ
荷物を適当に纏めて履き慣れたスニーカーの靴紐を結び直している時に、ふと思った