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金ちゃんと出会ってからもう何日が経ったでしょう


そして


私が最後に炭水化物を口にしてから何日が経ったでしょう




「はーらーへーったー」

奴を見つけ次第たかってやる。二月十四日のフジコに群がる女の子のごとくたかってやる。

確か通ってる病院はここだ。絶対ここなんだ。てかここの病院じゃないならむしってやる。何かを
むしり取って食ってやるよコンチクショー!!もういっその事この病院食い尽くしてやろうかコルァー!!
医者も看護婦も集中治療室も受付とかに絶対置いてある観葉植物とかも全部バリバリいったろかー!!




……腹減りすぎて頭の中がおかしくなってきた


「おい、知ってるか?東京から来た患者」
「ああ、確か手塚といか言う…」
「ヘイドクター、ちょっとその話聞かせてくんな」

高速で詰め寄って肩をわっしと掴む

「な、何だい君「いいからその患者の事話さんかい」
「い…一応僕も医者だからさ、患者さんの事はそう簡単には話せないんだよ」
「やかましいわ。守秘義務だのインフォームドコンセントだの製造物責任法だのそんなもん食欲の前ではみそっかすよみそっかす。ええから黙って手塚出しやがれー!!
黒柳!?」


どこか聞き慣れた置鮎声が聞こえたかと思ったらそこにはなんか日曜のお父さん的風格を漂わせた手塚が立っていた

「わーん!手塚ー!!会いたかったよー!」
「お、おい!何でここに…」
「お腹すいたよー!ひもじいよー!!75%のでんぷんと7%のたんぱく質と少量の食物繊維を含んだものが欲しいよー!」
素直に米と言え!!

これだけのヒントで言い当てられるなんてさすが手塚!あったまいー!!







「で、お前は何をしに来たんだ」
「えーと、お見舞い?」
「この時期にはるばる東京から?全国大会も控えてるというのにか」
「何さ、お見舞い来ちゃいけないってのかい」
「…何か用事があって来たんじゃないのか?」
「あるっちゃあある。ないっちゃあない」

こんな時だけ妙に鋭いんだよなぁ、手塚って




「適当に買ってきたが、これでいいか」
「好き嫌いはあんま無いから大丈夫」

病院のベンチに腰掛けて、手塚がコンビニで買ってきたごはんを袋ごと受け取る
なんか手塚とコンビニって合わないなぁ

そんな事を考えながら袋を漁っていると、手塚が隣に座った


「負けたそうだな、立海に」
「開口一番にそれですか」
「他にお前がこんな行動を起こす発端が思いつかない」
「…………」

私は無言でシャケおにぎりを食べる
シャケと梅と筋子っていうチョイスが手塚らしいなぁ。飲み物はお茶だし

「ねぇ知ってた?」
「何をだ」
「私さ、一時期手塚の事好きだったんよ」

シャケおにぎりのゴミを袋に詰めつつ二つ目のおにぎりを開封する

「……何の冗談だ」
「んー…いや、好きっていうのは誤解を与えるね。こういう夢小説だし」

袋に残ったノリを出しつつうんうんと頷く。
手塚はどうすればいいのかわからないらしく、私の作業を目で追う

「好きっつーか、憧れ?尊敬?みたいな」
「初耳だな」
「誰にもゆってないもん。しかもその憧れてた期間短かったし。ものの一週間程度かしらね」

そだなぁ。ここは回想シーンを織り交ぜるべきですかね

あれは、私が女子テニス部に入部して少し経った頃でしたね






~回想中~




「あーなたはっ、いなーづーまーのぉ、よぉーおーにぃ♪私のっ、心をぉ、引き裂ぁーいーたぁー♪」
「あんたって帰国子女よね?何でそんな古い日本の歌知ってんのよ」
「まあまあ、細かい事は気にすんなよ松本」
「大崎よ。一文字も掠ってないじゃない

いいねぇ。これが日本の『つっこみ』ってやつだね!



「ゆーあーろーりん、さんだぁー……ん?」
「どうしたの?……ああ、男子テニス部ね」
「レギュラーの人ってレギュラージャージ着てるんだっけ?」
「そうよ。今はまだ来てないみたいね」
「東国原、ちょっと先行ってて!」
何でその●んま東の本名なの…ってちょっと!徹子!」

私は一直線に男子テニスコートの方へと向かっていった



そっからはずっとキャーキャーと騒ぐ女の子に混ざってずっと部活を齧りつくように見ていた
今ほどではないけどやっぱりあの時から青学レギュラーはレギュラーというだけで人気があったから、私もそのレギュラーの内の一人を見に来ているんだと思われてたのかもしれない

でも、かっこいいだの強いだの言われてる青学レギュラーなんかより、もっと私が強く惹かれたものがあった

それは、レギュラージャージすら着ていない一年生

すごく気になって、一年の時から同じクラスだったフジコに名前を聞いた



「あのさ、フジコ」
黒柳さん、いい加減その呼び方止めてくれないかなぁ…」
「あだ名じゃん。いいじゃんフレンドリーで。フジコも私の事あだ名で呼べばいいじゃん。黒柳徹子だからシンディーって呼べばいいじゃん」
そのあだ名全く名前と関係無いよ!!

日本の人は『つっこみ』が好きなのかなぁ
大崎(…だっけ?)もフジコも高槻(だったと思う)もみんなみんな『つっこみ』入れてくるよ!!

「そんな事より、男テニにメガネの一年生いない?なんかすげぇテニスの上手な」
「うーん………目が見えてる方?見えてない方?」
「なんじゃそら。メガネ掛けたら目が見えなくなるんかい。それはメガネがものすごい曇ってるかメガネをものすごく紙やすりで磨いたときだけだよ
「いや、それがいるんだよね」
「へー。男テニって変なのがいるんだね。でも私が言ってるのは目が見える方だよ」
「じゃあ手塚の事だね、きっと」
「てづか?」
「そう。手塚国光。多分、僕達の学年では一番上手いんじゃないかな」


「てづか、くにみつ…」



「意外」
「は?」

急に後ろから声がした。チンピラ……いや、高槻だった


「お前はどっちかって言うと菊丸とかそっち系がタイプだと思ってた」
「いやいやいや、私が名前聞いたのはそういう事じゃなくて!てか菊丸みたいなのもタイプじゃないし!!」
「そうか、手塚か…。俺あんま話さねぇからよくわかんねぇけど、一度会ってみるか?」
「え?」
「会って話してみたいんだろ?」
「や、そういう訳じゃ…」
「いいからいいから。俺に任せとけって」




~回想終了~






「とまあ、こんな感じで」
「…知らなかったな」
「だろうねぇ。で、実際三日後会ってみた訳ですよ。するとこうですよ」






『手塚、お前に会いたがってる奴連れて来たぜ』
『初めまして!私黒柳徹子って言うんだけど、すごいね!テニス上手なんだねぇ!一度試合』
『高槻と言ったか、男子テニス部のコートに入れる女子はマネージャーのみの筈だ。規律を乱すのは感心出来るものではないな』






「と、こんな訳です。そらぁ尊敬も憧れも好意もなんもかんも無くなるっちゅー話ですよ」
「……あの時は、色々とあって気が立っていたからな…」
「はいはい。わーってますって。伊達に三年間テニス部だった訳じゃないよ。さすがにあの時はショックだったけどねぇ」

最後の筋子おにぎりをたいらげ、お茶でぐいっと胃に詰め込む
空腹でおにぎり三個も食べれたよ!空腹ってすごいね。まだいけるよ。

「でもね、あん時から手塚のテニスに対する姿勢っつーのかな。それだけはずっと尊敬してたんだよ」
「過去形か?」
「いんや、現在進行形。だからこうやって会いに来た」

お茶も飲み干し、空のペットボトルを少し遠くにある資源ゴミのゴミ箱にぺいっと投げる
ゴミ箱の淵にコンッと当たってゴミ箱の中に落ちていく

「何か、俺に会いに来て収穫はあったのか?」
「無いような気もするし、あるような気もする。ま、気晴らしと心の入れ替えは出来たかな」

立ち上がってうーんと背伸びする
もう夕日が出てきた


「じゃあ、帰るね。手塚も一緒に東京帰ろっか?」
「いや、まだ怪我の治療が済んでいない」
「…そーやってクソ真面目に返されると、リアクションに困るんだけどなぁ。ま、いいか。手塚らしいわ」
「今から帰るのか?」
「うん。帰りの切符はもう行きの時に買っておいたから、夜中か明日の朝には着くんじゃないかな」

私にしては計画性があるでしょ!ふふん
実は忍足に『絶対帰ってこれなくなるから前もって帰りの切符は買っておけ』って言われたんだよ!
すごいね。エスパーの上世話焼きだね忍足。母ちゃんっていうかおかん。おかんだねあの人は



「じゃ、帰ってくるの待ってるよ。絶対全国大会に間に合わすように!」
「ああ……お前も、まだ改善の余地はあるんだ。練習には参加」
「はいはいはーい。わかってますって」

こんな時まで部長ですか!
忍足がおかんなら手塚はおとんだ。メガネパパとメガネママだ。





手塚に久しぶりに会って、私は何となく初心に帰ったような、なんとなくまだまだやれそうな気がした

そんな気持ちで帰りの列車に揺られながら、まだ遠い東京へ辿り着くのを心待ちにしていたのです