乾の粋な計らいで、フジコが手伝いに来てくれました。
お陰で私はこうやってご飯の支度に専念できるから有り難いのですが。

「……今日はカレーっすか?」

誰かこのキッチンの妖精をどうにかしてくれ。マジで。キッチンに常駐して動かないのだが。
食事の支度してるのにキッチンから逃げ出す訳にもいかないし、私の性格上無視も出来ない。
誰だ私の性格をこんなにしたのは。親か。親なのか。

「…今日はチキンカレーとサラダとオレンジ。カレー嫌い?」
「別に」
「そっか。なら良かった」

平静を装ってはいるが、心の中ではだんじり祭りが繰り広げられている。
ズンドコズンドコ言ってる。

とりあえず包丁で手を切らないように気をつけつつ、ヨーグルトを開けたバットの中に鶏肉を放り込んだ。

「…何でヨーグルト入ってるんすか」
「ヨーグルトに鶏肉を漬けると鶏肉が柔らかくなるんだって。母さんに教えてもらった」
「へぇ」

興味深げに私の手元を見るリョマ子。大人しくしてたら可愛いんだけどなぁ。

「意外と料理上手なんすね。なんか手馴れてる」
「……昔母さんにさんざんこき使われたからね」
「料理上手い人っていいっすよね」

ざく

「そーかな。誰でも作れるよこんなん」
「少なくとも俺は作れないっすよ」

ざくざく

「あはははーそっかぁ。まあ男の子だもんねぇ」
「……さっきから鶏肉に竹串大量に刺してるんすけど、いいんすかそれで」
「あ」

はっと気が付くと、鶏肉に大量の串が突き刺さってハリネズミみたいになっていた。
なんかもうここまですると何かの儀式みたいだ。

「ええい!気が散るから出てけ!!自主練でもしとけバカヤロー!!」
「いや、もう少し見てたいんすけど」
「いいから出てけよ!今出てったらこの台所洗剤あげっから!」
なんか新聞の勧誘みたいになってるっす……まあ、楽しみにしてる」

相変わらず憎たらしい笑みを浮かべ、キッチンから出て行った。
うごおおお貴様の顔面に竹串をおみまいしてやろうか!やっぱ嫌!あの可愛い顔が穴だらけになるのは耐えられん!!








「と、言うわけでこのプリティーボーイなんとかしてくれませんか」

カレーも無事完成して(鶏肉が穴だらけになったが)皆でテーブルに集まった中で、私は心からの声を告げた。

高槻に視線を送ると、器用に前髪をピンで留めていた。
食べる時に邪魔なら切れば良いのに。むしろ私が切るのに。
ハサミ横に入れて古来日本の洗練された美しさを堪能できる前髪にしてやるのに。まあいわゆるひとつのパッツンですよ。

「どうにかしろって本人の前で言うかそれを……つうかフジコ、一味唐辛子はその辺にしておけ。活火山みたいになってんぞ
「これくらいかけなきゃ食べた気がしないよ」
なんか汚されてる気分になるから作った本人としても是非やめていただきたいのですが
「…………うまい」

いつも通りの会話の間に、ぽつりとリョマ子の声が入った。

「そりゃあ良かった。ちょっとは私の株も上がったかね」
「別に下げてるつもりはないんすけど、これだったら毎日食える」
「そーかそーか。なんか嬉しいねぇ」
「……お前ら、仲良くしてえのかそうじゃないのかどっちなんだよ」

そう言って高槻はくわえたスプーンをぶらぶらと揺らす。行儀悪い!

「そりゃあ…まあ……」
「ごちそーさまぁ!!さて、ちょっと休憩したら夜のトレーニング行ってらっさい!片付けとくから!!」

食べ終えた皆の皿を片付けると勢い良く立ち上がる。

「あ、先輩、俺手伝…「男子厨房に入らずじゃろがい!!
「………っす」

私の剣幕に負け、リョマ子はまた椅子に座り直した。





「ったく………高槻のアホ。イナゴ。美尻」

ぶつぶつと文句を言いながら皿を洗っていると、後ろから足音が聞こえた。

「誰じゃあ!男子厨房に入らずあれ程……」
「随分気が立ってるね、

キッチンに入ってきたのはフジコだった。
乾いたタオルを手に取り私の横に立つと、水切りカゴの中から洗った食器を出して拭き始めた。


「……高槻は?」
「越前が今見てる。セルフジャッジの試合形式」
「そりゃあ負けるわ。元気なリョマ子とライフポイント僅かな高槻じゃリックドム3体とガンタンクくらい戦力差があるもの。ジェットストリームアタックくらうわ

けらけらと笑うとフジコはいつもみたいにキレのあるツッコミは入れず、静かに笑うだけだった。
何でだ。今フジコさんのツッコミ待ちですよ。

「……フジコ?」
「越前の事、どう思ってるの?」

ストレートに今一番聞かれたくない事を聞かれてしまった。
誤魔化そうかとも考えたがそういう雰囲気でもない。

「………わからん。ここまではっきりアピールされた事なんか無かったし、ましてや付き合うだの付き合わないだのとはとてもとても」




「……じゃあ、もっと混乱させる事聞いてもいい?」
「え?」

そう言ってフジコが発した言葉は、本当に私を混乱させたのだ。











「1年の時からのこと好きだったって言ったら、信じる?」