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徹子が軽音楽同好会に入った次の日の放課後、徹子、謙也、清純の3人は謙也の所属クラスである3年B組に集まっていた。
「さて、こうして無事新入部員が入った訳や。そこで、俺達の次にやるべき事はすでに決まっとる」
「分かってるよ。曲目決めとか音合わせとかでしょ?」
「いや、その前にやる事があるんや」
「へ?………新入部員歓迎会とか?」
「違う。これや!」
そう言って謙也は黒板に勢いよくチョークで文字を書き始めた。
そしてチョークが置かれると、そこには荒々しい字でこう書かれていた。
『新入部員の勧誘』
「…………は?」
「まずは俺達の同好会を部まで昇格させる必要がある」
「……え?謙也と、清純と、私で部になるんじゃないの?」」
「『部活動を新たに申請する場合は、部員5人以上を集め年度開始から5月31日までに申請する事』。これ、うちの校則だよ」
「て事は…あと、2人部員が必要って事?」
徹子がそう問うと、謙也は大きく頷いた。
「出来ればある程度経験がある奴がええな。贅沢を言うならベース弾ける奴な」
「徹子ちゃんがギターで俺もギター、謙也がドラムだから、あとリズム隊としてベース。音に厚みを持たせるならキーボードも欲しいね」
「……………」
「あとは…ローディーなんかいるといいよね」
「ライブハウスとかに行くならアンプとかのセッティング大変やしな」
「……………」
「………徹子ちゃん?」
「徹子?いったいどうし……」
二人の視線が徹子に向けられた瞬間、徹子はむくりと立ち上がった。
「
このボンクラ共がーーーーーーー!!!!!
」
窓ガラスがびりびりと震えんばかりの大声で先輩二人を怒鳴りつけた。
「入部した途端に部員が足りない、部が作れない?あ?今そう言ったか?」
「え、ああ………」
「あんたら今まで2年間何やってたんだよおい!まさかお互い練習だけしてぐだぐだ過ごしてきたんじゃないだろうな?お?」
「う…痛い所突いてくるな……」
徹子の辛辣な言葉に、二人は何も言い返せなくなる。
二人のそんな様子を見て、徹子は溜め息をついた。
「…つまり、新入生が5月末までに最低2人でも入らないと同好会のまま部室どころか部費すら貰えないと」
「……まあそういう事になるな」
「そう、分かった」
そう言うと、徹子は椅子から立ち上がった
「徹子ちゃん?」
立ち上がった徹子はこの上なく悪どい顔をしてダン、と机に勢いよく足を乗せた。
明らかに悪役の顔だが一応ヒロインだ。
「2人なんて生温い事言ってんじゃないわよ。こうなったら数十人単位で大量獲得してやろうじゃないの」
「は?数十人!?」
「徹子ちゃん、俺らだって今まで結構一生懸命部員勧誘はやってきたんだよ?それなのに今更何をやろうって……」
「今までは男2人しかいなかったんでしょ?今なら私がいる。一肌脱いでやろうじゃない!!」
制服を勢いよく脱ぎ、カーディガンやスカートを思い切り宙に投げた。
2人が投げられた服に気を取られそちらに視線を向けていると、徹子はいつの間にかボンデージ服に身を包んでいた。
「脱ぐの早!」
「文字通り一肌脱いでやったわよ。これで勧誘すれば野郎共大量ゲット間違い無し!!」
「いや、その格好じゃ軽音部だって分からないよ!」
「何言ってんの!軽音つまりポップス!ロック!反骨!犯罪!囚人ときたらボンデージ!ここまで反骨精神溢れた格好なんてなかなか無いでしょう!」
「
学校でそんな格好してるとボンデージって言うよりむしろびんぼっちゃまに見えないかな
」
「
古!!
ちゅうか千石、何を呑気にツッコミ入れてんねん!」
徹子を直視できない謙也は、律儀に徹子の投げ捨てた制服を拾っている。
こう見えても謙也は医者の息子で育ちの良い子だ!
「まあ夢小説主人公がボンデージファッションで練り歩くというのもある意味斬新で反骨精神溢れまくってていいんじゃないかと」
「
そんな反骨精神捨ててまえ。そんな小説誰に需要があんねん
」
「まあとにかく正攻法で駄目なら裏技でもチートでも何でも使ってやるしか無い!!という訳でビラ捲いてくる!」
露出狂極まりない恰好で、徹子は大量のビラを抱えたまま教室を飛び出した。
「いやあ、面白い子だね徹子ちゃんて」
「んな事言うてないで止めに行くで!あのアホどこ行った!」
「一応新入部員の勧誘は玄関前の広場でっていう規定があるけど」
「それや!行くで千石!!」
謙也は持ち前の足の速さで玄関まで駆け出した。
それに遅れる事数秒後千石もやって来るとそこには新入部員を勧誘する他の部の部員達が大勢いたが、徹子の姿はどこにも見当たらなかった。
「あれだけ目立つ格好してたら分かると思たけど、何処に……」
「みなさーん!軽音部を宜しくお願いしまーーす!!!」
その声は上空から聞こえてきた。
それと共に、空から降ってくる大量のビラ。
謙也と千石が反射的に上を見ると、拡声器を持ちビラを大量に捲く徹子の姿があった。
「軽音部は新入部員を募集していまーす!楽器が出来れば尚良し!出来なくてもパシ……楽しいマネージャーのお仕事が待ってますよー!」
「…あんな突飛な格好で規定通りの勧誘なんかしないだろうと思ったけど、まさかここまで派手にやるとはねぇ……」
苦笑する千石の隣で、謙也は呆気に取られただただ屋上を見ているだけしか出来なかった。
「入部希望者は3年B組の忍足謙也まで……って、何すんだコラ!邪魔すんなー!!」
屋上にいた徹子は、生活指導の教師達に取り押さえられ引きずられていった。
誰かが呼びに行ったのか、ただ単に派手なパフォーマンスが職員室まで届いたのかは定かでは無いが、その後に千石と謙也を呼び出す放送も流れた。
謙也がはっと我に返った時には既に、取り押さえられた徹子がふてくされた表情で生活指導室に叩き込まれみっちり説教を受けている所だった。
ひらひらと舞い落ちるチラシの一枚を、細い指が掴んだ。
派手な髪色に着崩した制服と目立つ外見をしているが、その指先は爪が短く切り揃えられ指先の皮も固い。
「……軽音部、か。また面白い奴がいたもんじゃの」
その捲かれたチラシの一枚がきっかけとなった事に、今の3人は気づいていなかった。