〜前回までのあらすじ〜
男らしい男が好きな主人公・は転校してきた男子生徒、千歳千里に一目惚れしてしまうのでした。
「こうやって一行であらすじまとめられるのに前回何であんなに長ったらしい文章やったんかなぁ」
「お前がキン肉バスターやらタワーブリッジやらかましとったからやろ」
しかも犠牲者俺だし。
「ふんふんふふーん、鳥のフーン」
「止めんかいその歌。汚い」
ご機嫌で下品な歌を歌う女にツッコミを入れつつ、2時間目の教科書を机に入れる。
チャイムが鳴り、休み時間を知らせる。
「ねぇ謙也、鳥って自分の体重軽くする為にすげぇ頻繁にウンコするってほんと?」
「知るか。つか、この前盛大に一目ぼれしただの何だの言うといて案外冷静やな?」
「ええそれはもう。虎視眈々と千歳千里の嫁の座を狙っておりますともさ」
真顔にそう言いながら、鞄から紙袋を取り出す。
小振りな紙袋で、中は何かわからない。
「何やこれ。ジャンプか」
「何でやねん。古本回収か何かか。材料や材料」
「は、材料?」
「この1ヶ月、私は情報収集に徹したんや。時に授業を抜け、時に白石を影武者に使い、時に金ちゃんにたこ焼き奢ってスパイをさせたり」
よく分からんがありとあらゆる手段を使って千歳をストーキングしていた事だけは分かる。
「そんで、千歳は昼休み屋上で一人日光浴をしている事が多いって事が分かったんや。だから、差し入れして仲を深めようと思うてな」
「それでその紙袋か」
「これから家庭科室ジャックして作ったろ思てな。白石が合鍵持っとるやろ……どんな男でも、美人からの差し入れを喜ばん奴はおらん」
「お前……なんちゅーか冷静すぎて逆に気持ち悪いわ」
「焦っていきなり攻めるのは上策やない。確実に隣のポジションを獲得するにはそれなりの戦略が必要っちゅー事や」
「戦略てお前」
「大げさやないで。恋は戦争や。さながら私は愛のテロリストや。ラブウォーリアーや」
「うん、全く上手くもなんともない。むしろ寒い。気持ち悪い」
紙袋を開けると無塩バター、小麦粉、卵、砂糖、バニラエッセンスにチョコチップ。
ほとんど料理をしない俺でも分かる。明らかにクッキーの材料だ。
きちんとラッピング袋とリボンまで用意してある。
「クッキーやったら家で作ってきたらええやん」
「あかん。私家のキッチン出入り禁止されとんねん」
「お前はキッチンで何をしたんや」
「何もしとらんわ。謙也、あんたも手伝いや。この付属品も連れてくで」
の視線を追うと、そこにはチョコチップに手を伸ばして音速でに手を叩かれてる白石がいた。
「……言うても俺、クッキーとか作った事無いで。貰い専や」
「………俺も作った事無いで」
貰った事もほとんど無いけど。悲しくなんかない!断じて!!
ちょっと白石が憎らしかったりなんかしないんだからねっ。あれ、俺ツンデレ?キモい?
「あんたらにそんなん期待してへんわ。ええから着いてき」
「……こういう事やったんか」
「ええか。誰も入って来ないように見張っときや。絶対に覗いたらあかんで!」
そう言って勢い良くドアを閉めてご丁寧に鍵まで閉めた。
「………頼んだって誰も覗かんわアホ」
「…つか、これはもう3時限サボり決定やな」
「今更やろ。多分4時限も連チャンでサボらす気やで、あの自称ラブウォリアーは」
「何やそれ」
入り口のドアにもたれかかり、チョコチップ(半袋)を食べる白石(に餌付けされた)
ヤンキー座りでひたすらチョコチップを貪り食うイケメンテニス部部長の図は意外と衝撃的だ。
「ちゅーか、って料理出来たんやな」
そんな衝撃映像を眺めていると、白石がぽつりとそう呟いた。
「……さすがに出来るやろ。家庭科の授業とか、家の手伝いとか」
「俺、調理実習でが包丁持ってる所見た事無いで」
「………そういや、俺も無いわ。常に茶々入れてるかサボってるかのどっちかのような…」
「……それ、1人で大丈夫か?」
ぼんっ
「………なんか、今爆発音が聞こえたんやけど」
「聞こえたな」
ぼがーんっ、ぼんっ
「おい、これまずいんとちゃう?」
「せやかて、中から鍵かけとるやろ」
ぼーんっ!
ぼこっ、ぽむっ
ぴよぴよぴよぴよぴよぴよぴよっ
ぽん、ぽこぽこぽこっ
だが断る。
ずごーん、しゅぱんっ
どかーんっ!!
「……爆発音や破裂音に混ざって変な擬音が混ざっとったような…」
「途中岸部露伴がおったな。ちゅーかんなのんびり話しとる場合とちゃうやろ。ドア開けるで」
「っておい白石!中から鍵かかっとるっちゅーねん!ドアぶち壊す気ぃか!!」
「アホ。んな野蛮な事せぇへん。白石家伝統の技、ピッキングや」
どこの末裔だ、白石家。
とかなんとか思ってる間に鍵が開けられ、そのまま勢い良くドアが開けられる。
すると部屋中に立ち込める煙、煙、煙。
「うわっ、何やこれ!」
「何も見えんな…とりあえず窓開けるで」
白石によって窓が開けられると、一気に煙が外に出ていき、視界が晴れた。
その中にはがぽつりと佇んでいる。
「おい、!一体何やったらこんな煙だらけに……」
「……今はこれが精一杯でした」
どこからともなくが出したのは、高そうな重箱。
中にはおにぎり、玉子焼き、ウインナー、アスパラベーコン巻き、から揚げ、ポテトサラダ、ミニグラタン、うさぎりんご。
「って待て待て待て待て!!さっきの材料がどうメタモルフォーゼしたらこんなごっつい弁当になるんや!」
「知らんわ!なんか知らんけど露伴先生が降臨なさったらクッキーが弁当になってたんやもん!!」
「露伴先生言うな、今の子誰も知らんわ!平成っ子が音速で置いてかれてるわ!!」
今にもが『スティッキーフィンガー!!』とか言いそうな剣幕で飛び掛ろうとした瞬間、4時間目終了のチャイムが鳴った。
「昼休みやっ!ちーとーせー!!!」
は軽く3キロはありそうな重箱を抱え、50m5秒フラットのスピードで屋上へと駆け出した。
「早っ!」
「ほら、さっさと俺らも追うで。昼飯食いっぱぐれるわ」
確実にあの重箱の中身を狙ってる白石と共に、俺も屋上へと駆け出した。
やっとの思いで屋上に辿り着くと、が千歳に駆け寄る所だった。
「千歳―!」
「ん…か。どげんしたと?」
「お昼の時間だよ。一緒にお昼食べようよ!」
「ああ、もうそぎゃん時間か…ぼんやりしちょって気がつかんかったと」
「(ああもうかっこいいなぁ!何でそんなナチュラルなんだよ!ナチュラル萌え!ナチュ萌え!!)」
「とかなんとか思ってるんじゃないスかね。あの間は」
「うおっ、光!?」
いつの間にか背後に光がいた。
気配消して近寄りやがって!怖いわ!!
「先輩達、あんまりですわぁ。先輩達ばっか授業サボって抜け駆けなんて」
「いや、さすがに後輩に授業サボらせるのは……」
「後輩イジメ以外の何者でもないわ〜」
不服そうな顔をしながら、何故か俺を睨む光。
俺だってに無理矢理連れて行かれたのに!!
「あんたら何してんの!さっさとお昼食べないと食いっぱぐれるでー!!」
千歳とは下に座り、こちらを向いて手招きをしている。
しかもちゃっかりは千歳の左隣をキープ。本気だ!!
「お、光も来たんか!いっぱい作ったから皆で食べよ!」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
重箱を囲むように座り、俺達は「いただきます」の声と共に手を合わせた。
「…これ食えんのか?」
「意外といけるんぐんぐんぐんぐ。つか、普通にうまいんもんもんも」
「顔が変形するまで口に物詰め込むのやめんかい。一応美形キャラやろお前」
なんつーか、ひどい。顔とか食いっぷりとか食い方とか。
「ん……の卵焼きは、砂糖と牛乳が入っとると?」
「そうだよ!あ、もしかして…甘い卵焼きは苦手だった?」
「いや。こっちの方が、俺も好いとうと」
にっこりと微笑みながら卵焼きを食べる千歳。
それを見て安心したような表情を浮かべる。ああなんか久し振りに中学生らしさが見えた気がする。
俺がそんな二人に癒されていると、横から低い声が聞こえた。
「あーほんま、何なんやろなぁ。いきなし現れていきなし先輩一目惚れするし」
「……光、なんかものごっつ不機嫌な顔しとるなぁ…」
「当たり前やないですか。あと1年かけてじっくり長期決戦で行こ思てたのに」
恨めしそうな顔で千歳を睨みながらも、しっかりとの手作り弁当は堪能している辺りちゃっかりしてると思う。
白石は相変わらず音速で箸進めてるし。どこに消えるんだあの食材は。
「ああいう男らしくてワイルドでぼさっとしててモジャモジャなんが好みなんかな〜」
「光、後半は完全に悪口や」
「ワイルドなら俺も負けてへんで」
「何言うてるんですか白石先輩。この中で一番対局におる人が」
「わかっとらんなぁ。俺はヤクルトジョッキで飲むしツナ缶は油切らんで食う」
「それはただ単に偏食で不健康なだけや」
もうやだ。この学校はイケメンが変人になるシステムでも搭載してんのか。
「あー食った。うまかった」
「ほんにうまかったばい。は良か嫁さんになれるとよ」
大きな手でわしわしとの頭を撫でる。
は今にも感激の涙と萌えによるよだれを垂らしそうだ。
そんなを我に返らせたのは、5時限の予鈴だった。
「、確か次マダムの古文や。早よ戻らんと起立で貧窮問答歌読まされるで」
「げっ。今日マダムか!あいつ遅刻と居眠りにはうっさいしな。行くで白石!」
と白石は全力疾走で教室へと戻った。
かく言う俺も急がんとやばい。
俺も走り出そうと思った瞬間、千歳がにこにこ笑いながらこう言った。
「ここのテニス部も、良か所ばい」
「…え?」
「ここだったら、残りのテニス部生活も楽しくやれそうな気がするたい」
俺には千歳のその一言が、自分にはもう後が無いと言っているような気がした。
「……先輩。なんかロマンチックな雰囲気醸し出してるてこ水差しますけど」
「…何や」
「戻らんくていいんスか。さっき本鈴鳴ったけど」
「あ」
スピードスターの脚力をもってしても間に合わず、案の定マダムのお怒りを買い、起立で貧窮問答歌を読まされる羽目になったのでした。