「暇だねー。給料良いけど暇なのもどうかと思うよ」

ふあー、と先輩が大きなあくびをしたから、俺にもあくびがうつった


本業の探偵だけじゃ食っていけなくなった俺と先輩は、短期の深夜コンビニのバイトをやる事にした
仁王先輩はクラブのバーテン、丸井先輩はファミレス。それぞれ短期でバイト
丸井先輩は短期の筈なのにつまみ食いで既にクビになりそうですが

事務所に残ってるのが真田副所長と柳生先輩だけなんだけど、それでも十分やっていける
それだけうちの事務所に仕事が無く経済難だと言うことだ


「ねぇ、お客来ないから宿題やってもいいかな?」
「いいんじゃないっすか………って宿題?」
「うん。うちの学校、3年に上がるときクラス替え無いから担任が宿題出してきたの」
先輩、学生なんすか?」
「え?何を今更」

先輩は自分のバッグを漁り、数学のプリントを取り出した
範囲は微積分

「赤也は高校卒業したばっかりなんだっけ?」
「え、ああ、はい。そうです」
「したら私より一学年上なんだねー。わかんないとこあったら教えてよ」

………自分よりも年下の女の子に先輩ってつけるのも何か微妙な気がする
て言うか学生の深夜コンビニのバイトって禁止じゃないのか?

「ねー赤也。この積分の面積計算の答え、2分の9になるはずなのに答えが12余り1になったんだけどどこがおかしいのかな?」

面積の余りって何だ







「やっと5時回ったかー」
「9時になったら店長が来て給料くれるって。急に雇うことになったからレジからお金くれるみたい」

レジには10万ほどのお金が入っている
やっと人間らしい食べ物が食べられるのかと思うと嬉しくなってくる

「喉乾いたっすねぇ。ちょっとお茶煎れて来ます」
「私番茶ねー」
「はいはい」

俺は中に入って、小上がりにあるちゃぶ台から急須と茶葉を取った



ピンポーン

「あれ、お客さんすかー?」
「金を出せ!!」

ん?


先輩、何が………」

レジに出てみると、怪しげな覆面を被った男が先輩にナイフを突きつけていた

「金出せだって」
「ご、強盗すか!?」
「うん」

強盗はナイフの矛先を先輩から俺に向け、喉元に突きつけた
怖い!マジ怖い!!

先輩!どーにかしてください!!」
「おい、お前!レジから金を出せ!!」
「ちょっとすんません」
「あぁ?」

ナイフを当てられたままの先輩が強盗を睨み付けて言った

「今あんた何て言いました?レジから金を出せって言いやがりましたかこの野郎」
「あ、ああ」

先輩の剣幕に押される強盗

「それは私達の給料なの。あたしらもう3日も炭水化物を口にしてなくて今にも店の物食いそうな勢いなんだよ。その金が無いとあたしらっつーかむしろあたしが飢え死にするんだよ。金払っても払わなくてもどっちにせよ死ぬんなら払わない方がまだマシってもんさ。大体早朝にコンビニ強盗とかする事がショボいんだよ。どうせなら銀行強盗とかテロとかもっとでかい事やれっての」
「テメェ!!」
「うらー!!!」

先輩は向かってきたナイフを蹴り上げ、おたまを手に取りグツグツと煮えたぎるおでんの汁を強盗に思いっきり頭から浴びせた

「熱ー!!!」
あたしにナイフを向ける事は死刑と同義!死すべし!おでんの汁で死すべし!!
先輩!落ち着いて!!」
くらえ!カルシウム光線!カルシウム光線!カルシウム光線!

賞味期限がすぎて回収した卵を強盗に投げつける
て言うかもはや光線じゃねぇ!!


結局、コンビニ強盗は警察に突き出される事になった
つーかむしろ強盗が警察に泣きつく勢いでした



「あーあ。こんな賞状じゃなくて謝礼金が欲しかったのにー」

警察から渡された感謝状をくるくる丸めて俺をぽこぽこ叩いて遊びながら先輩がぼやいた
俺達はコンビニ強盗を捕まえた勇気ある若者として警察から表彰されたのだ
まあ、悪い気はしない

……殆ど先輩が暴れただけなんだけど



「そうだね。こんな賞状じゃ御飯は食べられないものね」
「おわっ!幸村所長!!」
「はい、お給料貰ってきておいてあげたよ」
「やったー!待ってましたー!!」
先輩!早く開けて!!」

俺と先輩は封筒の袋を開け逆さまにした



「………五百……二十七円?」
「事務所借りてるお金とブン太が店の物盗み食いした分のお金差し引いてこれだけ残ったから」
「テナント料ー!?」
「て言うか盗み食いー!?」
「ちくしょーあのタダ飯食い!!行くぞ赤也!」
「何処へっすか!?」



「………今はスズメが食べ頃ですよ……」










今回のバイトで得た物

少量のお金と表彰状


………そして食べ物にありつければ何でも良いという根性