こんにちは、切原赤也です。

俺がこの事務所にきて一月が経ちました。







「………There is a cheir on the dog……でいいのかな?」
逆です。これだと犬の上に椅子がある事になりますよ
「いいじゃん。おもろいじゃん」
「おもしろいとかそういう問題じゃなかよ」

先輩は学校での宿題を事務所に持ち込み


「さい」
「い…いるか」
「かもめ」
「めざし」
「しまうま」
「ま…ま……まー?まだ何かあったか?」

ブン太先輩と柳先輩は食べられる物しりとりで今日の掃除当番を決めている
しかしここでは食べられる物の定義が広すぎるのでもうかれこれ30分はやっている



「赤也!行くよ!!」

いつの間にか宿題を終わらせていた先輩が俺の頭をポンと叩いた

「え?また食い物探しに行くんすか?」
「3割正解」
「て事はまた山っすか!?」

嫌だ!また猪や鹿や熊と戦うのは嫌だ!!

「赤也も随分うちに馴染んできたみたいじゃの」
「狩猟民族みたいになってるね」
「残念ながら今日行くのは山じゃなかよ」
「え?」







多分今の俺は目が点になっているに違いない

「ここは………アパート…っすか?」
「そう。紛れも無くアパートです」
「こんなアパートに何の用が……」
「甘く見るんじゃなかよ、赤也」
「え?」

仁王先輩は下ろしていた髪をヘアゴムで縛りながら言った。

「ここにはある凶悪犯罪者が潜んでいるのよ!」
「は、犯罪者!?」
「馬鹿!声がでかい!」

先輩に殴られた。しかもグーで思いっきり

「何でその犯罪者の所に俺らが?」
「え、えーと、まあ、依頼っつー事で行くよー!れっつごー!」
えぇ!?何その曖昧さ!!



階段を上がり、先頭にいた仁王先輩が2階の奥の部屋で止まると、俺と先輩もその後に続いた

「な…なんかドキドキするっすね………」
「じゃあ赤也に選ばせてあげよう」
「え?」
「これから仁王君が不正な方法で部屋に入ろうとしています。さて、どの方法で入る?」
「そーじゃのー……じゃあ4択で。1.鍵を壊して入る。2.窓を壊して入る。3.ドアを壊して入る。4.このアパート自体を壊す
もっと穏便な方法は無いんすか!?
「よし、外れた」

カシャン、と言う音がして、ドアが開いた

「おお、前よりも早くなったのぅ」
「えへへー」

どうやら先輩が鍵を外したようだ

最初からそうやればよかったのに何でわざわざ俺に選ばせるんだよ





「へー、案外片付いてるね」
「相変わらずマメな男じゃ」

部屋の主はいないらしく、片付いた部屋には俺たち3人しかいない

「ここが犯罪者のアジト……っすか」
「そうそう。犯罪者のアジト。ぷほほほほ」

何その笑い方!

「って先輩!何勝手に漁ってるんすか!」
「犯罪の手掛かりっぽいものを探してるように見えたら光栄」

戸棚でカンパンを見つけ、ボリボリと音を立てて食べ始める先輩

。こんなもんまであったぜよ」
「おお、ハッ●ーターン!これ砕いて粉にして食べるのが好きなんだよねー」
わざわざ製造会社が固めた意味が無くなるのぅ

ハッ●ーターンとカンパンを先輩達が食べてる中、俺は部屋を見渡した

部屋は至って普通で、犯罪者の家って感じがしない
ゴミ箱にはカップ麺の空、やかんには麦茶、春なのに一足先に風鈴が飾ってある

「何かもっとそれっぽいのを期待してたんすけどねー……ん?」
「赤也、どしたん?」
「………ここって本当に犯罪者の部屋なんすか?」
「な、何さいきなり」
「だって、これ………」

壁にかかっていた布製の袋に大量に刺さった赤い羽根
しかも数個じゃなく数十枚

「募金した時に貰える羽がこんなに……」
「アイツ……金に余裕があるみたいだね」

チッ、と物凄く恐ろしい顔で舌打ちする先輩

「これ位で勘弁してやろうと思ったんじゃけど、余裕ならこの北海道銘菓『白い恋人』も食っちゃろう」
「おう!私思わずビスケット剥がして食いそうだけど見逃してよね!」
「あんま上手く剥がれんよな、これ」
「ビスケットとチョコがずれてるやつは剥がしやすいよ」

白い恋人の入った缶を開けてモリモリと食べ始める先輩たち

「先輩、やっぱここって犯罪者の家じゃないんじゃ……て言うかこれって不法侵入………」
「甘いわ赤也!この赤い羽根は募金した時に貰った羽じゃない!これで人を殺して返り血を浴びたから赤いんだ!!」
、それはさすがに無理があるぜよ。せめて『ここの住人から抜け落ちた』位にしておかんと」
「どっちも同じだー!つーか白い恋人食うなー!!」

かぁん



俺が怒ると、先輩は白い恋人の缶を投げつけてきた

「うるせぇー!こちとら極限状態だっつーの!極限状態だっつーの!!」
「何で2回も言うんすか!!」
「黙れ!捻じ曲がった根性しやがって!そんなんだから捻じ曲がった髪が生えてくるんだよ!
五月蝿いから喋んな!白い恋人口に入れたまま喋んな!食べカスが飛んでるから!!
「ん?何じゃこれ」

仁王先輩ののんきな声で、俺と先輩は一旦言い合いを止め、仁王先輩の方を見た
仁王先輩の手には、一枚の写真

「おお、金髪美人。グラマーじゃのぅ。色黒じゃけど」
「あ、ほんとだ!」
「マジで!?これ恋人!?」
「知らんかったぜよ……」

ガチャッ

「ふー、疲れ「JACKAAAAAAAL!!!!!!!」


なんかすごい流暢な発音で喋ったかと思うと、先輩は怒りのトルネードアタックを繰り出した
すげぇ回ってる!なんか穴開きそうな位の勢いで回ってる!!

「テメェ何ですかコノヤロー!可愛い彼女作っていい気になってんですかコノヤロー!こんな可愛い彼女作ったなら私に紹介して私の目の保養を増やすべきなんじゃないんですかコノヤロー!隠したがりですか!隠したがりジャッカルですか!」
「これ、ジャッカル死んだんじゃなか?」

足元には、ブクブク泡を吹きながら痙攣している黒人の男

「仁王先輩、これって………」
「ああ、こいつはジャッカル桑原。うちの元所員じゃ」
「ええ!?」
「ウチじゃ稼げないからって辞めて、そんでもって今は……何やってんだっけ?」
「日雇いの工事現場のバイトと夜中の警備会社のバイトの掛け持ちじゃ」

えーと、つまり整理すると

金が無く空腹なので取り敢えず普通に働いている知り合いの所に食い物をたかりに来た

と言うのが正解らしい


「なら素直に食料調達って言えばいいのに……」
「だから3割正解って言ったじゃん」
「3割も何も、これだけじゃないんすか?」
「今日はコイツに依頼されて来たんじゃよ」
「依頼?も、もしかして探偵の仕事っすか!?」
「そだよ。何驚いてんの」
「じゃあ尚更やばいじゃないっすか!依頼人気絶させてどうすんすか!!」

先輩は数秒間止まり、それからこう言った




「………、ウッカリ☆」





結局、ジャッカルさんはこの日目覚めませんでした