今の時間は午前9時。つまり朝
俺達は空腹の音をBGMに眠りに着こうとしていた

と言うのも、珍しく大口の依頼が入り調査が朝方までかかり、特に何の損害もなく成功させたのだ
幸村所長は珍しく菩薩のような笑みで迎えてくれて、依頼料は後日きちんと貰えるそうだ

それで普通の肉を食おう!という事になり今か今かとお金を待ち望んでいるのです

それでも睡眠不足をなんとかしようと今日は事務所をお休みして皆で寝る事に
空腹でなかなか寝付けない俺達はセオリー通り羊を数えて眠るつもりだったのだが


マトンが一匹、マトンが二匹、マトンが三匹………
ラムが一匹、ラムが二匹、ラムが三匹………
ジンギスカンが一匹、ジンギスカンが二匹、ジンギスカンが三匹………

羊殺さないで下さい。焼かないで下さい

って心の中でつっこんでたら俺も眠くなってきた
おやすみ………

どがしゃあぁぁん!!!

「うわっ!な、何だ!?」
「………印刷室の方から聞こえましたね」

ソファーで寝ていた柳生先輩が目を覚まし、布団代わりに被っていたジャケットを上に着た
印刷室の方へ向かう柳生先輩。俺もその後に着いて行く

「柳生先輩何が………」

そこには倒れた観葉植物のダルシム君(先輩命名)
何故倒れたのかと言うと印刷機が倒れてるから
何故印刷機が倒れているのかと言うと


外からでかい石が投げ込まれたから

窓ガラスは割れてしまっている


「柳生先輩、これ………」
「………印刷機、窓ガラス代、しめて150万……」



吐血









「誰だやったんはー!!とっ捕まえて五体バラバラにして臓器を非合法に売り払ってやらぁー!!!」
先輩落ち着いて!落ち着いてください!!」
「ふむ……」

最近やたらに存在感の薄い真田副所長が割れたガラスの近辺に近寄った

「犯人わかったんすか?」

俺がそう聞くと、真田副所長は暫く考え込みこう言った

「うむ、ガラスの破片が内側に飛び散っている事からこれは外部の犯行だな」
そんなん誰が見たってわかるわー!!

真田副所長に先輩の放ったレッグロックスープレックスが見事に決まった
それからエルボードロップ、テキサスグローバーホールドの連続技

………気が立ってるにしても、何でそこまでマニアックな技を次々に出せるんだ……


「まあ確かに、内部犯がやって得する事なんて何も無いしな」

うん、とブン太先輩が頷く






「近所のガキがやったんじゃなか?」
「子供はこんな裏道まで入ってこないだろう。それに……が一週間ほど前に事務所前でボールをぶつけられ子供にジャーマンスープレックスを仕掛けてからここには子供が寄り付かなくなっている」
「たとえ純真無垢な子供であろうとも人のテリトリーに入ってしかもこのちゃんにボールをぶつけやがったのですよ?子供とは言え重罪よ重罪」

容赦ねぇ!!

「しかし、この窓からか……ん?」

柳先輩が屈んで何かを拾った

「………手紙、だな」

今まででかい石の存在ばかり目立っていたので気づかなかったが、窓の付近に見慣れない封筒が落ちていた

「恐らくガラス瓶にでも入っていたのだろうな。あそこにコルク栓がある」

ガラスは混じってわからないけど、コルクの栓だけはきちんと残っていた

、お前宛てじゃ」
「え?あたくしですかぃ?」

封筒には墨で『様』と書かれている

「えーっと、なになに?」








相変わらず事務所は寂れているようですが、如何お過ごしでしょうか?

石は私達の事務所が投げ込んだ物です(笑)

申し出を受け入れて頂ければ、今後この様な事は致しません

私達は申し出を受け入れてくれてくれる事を心より望んでいます



榊探偵事務所 所長代理 跡部景吾

代筆 日吉若








150万を(笑)で済ますんじゃねぇええぇ!!!!


先輩は手紙を封筒ごとビリビリと破いて床に叩き付けた



「………柳先輩、榊探偵事務所ってどこの事務所なんすか?」

小声でこっそり柳先輩に尋ねてみる

「表通りにある探偵事務所だ」

ここが原宿裏通り、表通りはそれなりに人も多く、その事務所はなかなか業績も良く社員も美形が多くて人気の事務所らしい
その点裏通りは人がいたとしても何か危険な感じのする人ばっかり。だから依頼も一癖も二癖もあるような物ばかり

一応幸村探偵事務所は榊探偵事務所よりも業績は上らしいが、立地条件が圧倒的に悪い
そのせいで普通の客を榊探偵事務所に取られているのが現状なんだとか


「とにかく!売られた喧嘩は売られた値段よりも数倍高くして返すべし!!」

今にも火を噴きそうな先輩を誰も止めようとはしない

「それで、申し出って言うのは……」
「ああ、きっとヘッドハンティングの事だろう」

ヘッドハンティング?プロレス技?

は榊探偵事務所に来ないかと声をかけられている」
「ええっ!?そんな先輩って有能なんすか!?」
「ああ……まあ、無能ではないが、の場合はそれに色々と付加価値がつくからな。跡部も放ってはおけないのだろう」
「何をぐだぐだ話してんの柳!榊探偵事務所に殴りこみ行くよ!!」

事務所のドアを荒々しく開け放ち、先輩、仁王先輩、ブン太先輩は階段を降りていった
少し遅れて柳生先輩も追いかける

「行くぞ赤也」
「は、はいっ!!」

真田副所長を置いて、俺達は榊探偵事務所へと向かった