やって来たのは榊探偵事務所
と言っても通りを一本出ただけなんだけどさ
………なんつーか全てにおいて負けてるって感じがする
「で、でかっ……!!」
「相変わらず嫌味ったらしい建物だこと」
聳え立つ高層ビル、沢山の有名なテナントが入っているその中に榊探偵事務所はあった
こんな所に事務所があるなんて……何でうちの親父はわざわざ裏通りにまで入って依頼したんだろうか
「ここの5階っすか……エレベーターもある事だし、すぐっすね」
「待ってられん!行くよ仁王!」
「またあれやるんか」
「おうよ!」
そう言うと、仁王先輩はスタスタとビルに向かって歩いていき、入り口手前5メートルくらいの所で止まる
先輩は逆にビルから遠ざかる
「行くよー!!」
先輩はダッシュで仁王先輩に向かって走っていく
「とうっ!」
ジャンプして仁王先輩の手の上に乗る
そして仁王先輩が思いっきり上に振り上げる
「てりゃあああぁあ!!」
ぐおおおっ、とすごい音がして、先輩は5階まで飛ばされた
上の方でバリガシャーン!!と派手な音。ガラスがバラバラと降ってくる
ええー!?
「俺も未だにあれの解明が出来ていない」
仁王先輩が力持ちなのか先輩が軽いのかもしくは先輩のジャンプ力がすごいのか
全部ひっくるめても普通5階まで届かないだろう
「便利と言えば便利なのだが、これには一つ困った事があってな」
「まあ、やるたびガラス割ってちゃ大変っすよね」
「いや、そういう事じゃない」
「じゃあどういう事なんすか?」
「今榊探偵事務所にはが一人でいると言う事だ」
危険だ!!!
あの先輩を野放しにしちゃいけない!!
「急いで行きましょう!今すぐ!ただちに!!」
「わかって貰えた様だな」
ダッシュで建物の中に入って階段を駆け上がる
エレベーターなんて待ってられない!!
5階までの階段を一気に駆け上がり、事務所のドアを開け放つ
「おお、やっときたか。遅い遅い」
先輩は爽やかな笑顔で俺達を迎え入れた
その足元には気絶している所員が二人
早速暴れまくってるし!!
「!?」
事務所の奥の部屋から誰かが出てきた
Yシャツ、ネクタイが妙に似合った美形。俺だって負けちゃいないけどさ
「跡部……!!」
先輩はアトベとか言う人に駆け寄って抱きついた
その直後逆向きのジャーマンスープレックスホールド
頭からもろに落ちるアトベさん
「はっ、この若造が調子に乗りやがって」
間違っても17歳の言う言葉じゃない
「相変わらずだな……で、こうして来たって事はうちに来るって事か?」
「150万貰いに来ただけだよ」
「こちらも225万頂きたいのですが」
先程先輩にボコボコにされていたストレートヘアのキノコっぽい人が神経質そうに電卓を叩きながら言った。
「うちのガラス、特別製の防弾ガラスなんですよ。1枚100万、2枚割ったんで200万です」
防弾ガラスをかち割った先輩はこの場合どうなんだろうか
「後の25万は?」
「俺に怪我させた賠償金。半月分の給料です。諸々含めたら更に増額されますが……」
月50万も貰ってんのか!?
うちのこの貧乏っぷりは何なんだ
「まあそれくらいは貰えても良いだろうな。跡部財閥の息子が代理所長をやっているのだから、依頼人もその筋の者ばかりだろう」
「跡部財閥……ってあの?」
「ああ。日本貿易の殆どを牛耳る、あの跡部財閥の御曹司が今そこにいる跡部景吾だ」
納税額も日本一、総資産額も日本一の財閥
最近は自動車工業や機械工業にも手を出してきているらしい
「そんな人が先輩をヘッドハンティングしてるんすか」
「まあ婚約者だからな」
こんやくしゃ?
「こっ、ここ、婚約者!?」
「………赤也、財閥は知っているか?」
「財閥……」
機械工業、自動車工業、サービス事業、食品、医薬品から日用品、果ては墓石や瓦とかまで扱う節操無しで有名な財閥
それでもあちこちで業績を上げ、今一番の出世株とまで言われてきている財閥だ
「もしかして……」
「…財閥社長の二人目の娘だ」
「嘘!?」
そんないいとこのお嬢様なのに何だこの乱暴っぷりは
「それで跡部さんは先輩を自分の所に呼ぼうとしてるんすね」
「それだけではないがな」
「まだ何かあるんすか?」
「いい加減諦めてくんないかなぁ?だから好きな人がいるんだってば」
「許婚に彼氏なんかいらねぇ」
「俺も、彼女に婚約者なんぞいらんけどなぁ」
「私は婚約者も彼氏もどっちもいらない!!」
王道っぽくバチバチ火花が散る。後には龍と虎
「つまり仁王がいるうちの事務所にを置いておくのは好ましくないと言う事だ」
「………ありえない」
「気付かなかったか?」
「全く」
えーと、仁王先輩が先輩と付き合ってて、跡部さんとが婚約者
「あれっすか、三角関係っすか」
「そんな素敵なもんじゃねぇ!一方的に親が決めたんだっつーの!彼氏だっていらないの!!」
それでもって、どっちも先輩が好きなのに、先輩はどっちも嫌い……?
「こらそこの眼鏡!飲み物出せ!水割りなんてケチ臭い事すんなよ!!」
「何や、未成年のくせに酒かいな」
「カルピスの原液だ!!」
「濃っ!!」
カルピスはストレートじゃなくて水割りで飲むものです
「そろそろ収拾がつかなくなってきているな」
「そろそろって言うか最初からっすよね」
「を止めるか……」
柳先輩はスタスタと歩いていき、先輩の肩をトントンと叩いた
「、もう5時だ。どさんこワイドが始まるぞ」
「マジで!?帰らなきゃ!!」
北海道ローカル番組だよ!ここ東京だよ!!
※どさんこワイド……北海道情報番組。デパ地下グルメだったり天気予報だったり。マスコットキャラクターの馬が微妙にリアルな3頭身。中に入っている人は鼻の穴から外を覗く
「てな訳で帰る!覚えておけよこのホスト軍団!!素足に革靴!!ねじりスカーフ!!リーゼント!!」
これでもかと言う程罵倒しているのにどれも該当していない
「はっはっはー!さらば!!」
がしゃがしゃばりーん!!
先輩はまたもや別の防弾ガラスの窓を突き破って外へ飛び出した
春先とはいえまだまだ冷えて寒いことこの上ない
俺達は慌てて事務所から飛び出した
………後々請求書がきたら、俺達生活していけないなぁとか思いながら