「山手線ゲームッ!全部カタカナねー!!」




「フットボールアワー!」
「アンタッチャブル!」
「スピードワゴン!」
「インパルス!」
「ロバート!」
「ヒロシ!」
「アンジャッシュ!」
「キングコング!」
「ドランクドラゴン!」
「パペットマペット!」
「インスタントジョンソン!」
「アメリカザリガニ!」
「チュートリアル!」
「アンガールズ!」
「エレキコミック!」
「チャイルドマシーン!」
「ハリガネロック!」
「ペナルティ!」
「マイケル!」
「カラテカ!」
「キングオブコメディ!」
「ハローバイバイ!」
「クワバタオハラ!」




「………………」


「梨花ー」
「うーん、最近お笑い路線だからアリだな」
「一応モデルなんすけどね」
「でもカタカナじゃないよ」
「あ、アウトだ!今日の罠の見張り当番仁王ねー」
おいダメ人間共、お笑い芸人で山手線ゲームやってる暇があったらさっさと仕事しろよ

俺がいつ突っ込もうか迷ってたら、どこからともなく現れた幸村所長が毒を吐いた

「うわっ!おユキの顔がスマイリーキクチだ!!」

あ、まだカタカナ芸人いた

「仕事持ってきてあげたんだから早く割り当て決めなよ」
「だっておユキさん、今日のごはんが……」
「大丈夫、二日三日食べなくたって生きていけるよ」
「もう水生活四日目です」
てかおユキの後れ毛が海を漂う海草みたいに見えてきて困るんですけど
「そうだそうだ!それに絡まってもがく魚の気持ちを考えろ!!

ブン太先輩が訳のわからない罵倒をしたが、幸村所長の放った一言で皆は態度が豹変した


「依頼料、即金で10万の仕事なんだけど」













「で、どうやって罠張るんすか?」
「カゴを棒でつっかえてその中にエサ置くんじゃ」

漫画とかでよく見る典型的な罠のスタイル
でもそのカゴがめちゃめちゃでかい。人一人は余裕で入れるサイズ
熊でも捕まえるつもりだろうか。つーかこんなんで何か引っかかるのか?



結局先輩、真田副所長、ブン太先輩、柳生先輩、柳先輩の五人は仕事に出かけてしまった
俺と仁王先輩は留守番で罠の見張り当番

………やっぱ今日もそこら辺を歩く動物が主食なんだろうか


「ええ天気じゃのー。洗濯物が早く乾きそうじゃね」
「でもここ裏道で日陰っすからね」
「それもそうじゃの」
「仁王先輩はお仕事いいんすか?」
「ああ、今日の仕事は浮気調査じゃからそんな人手は必要なかよ」
「そーなんすか?」
「元々、この事務所3人しかおらんかったからのぅ」
「3人?」
「おう。真田と柳生との3人じゃ」

て事は、やっぱりその時から幸村所長はあっちこっちふらふらしてたんだ

「じゃあ仁王先輩はどうやってこの事務所に?やっぱ求人広告とかあったんすか?」
「あー、まあ成り行きでな………聞きたいか?」
「気になるっすねぇ」

何処から話そうか、と仁王先輩は考え込んでから話し始めた

「俺は元々別の仕事をやってたんじゃよ」
「何の仕事っすか?リーマン?」
「詐欺師じゃ」
「詐欺師ぃ!?」

あまりにも漠然とした職業でいまいちピンと来ない

「あの時は………大豪邸に借金の借用書を盗みに行く仕事だったかのぅ」
「随分と危ない橋渡ってたんすねぇ……」
「丁度その時その家で婚約披露パーティーがあったから客のフリして盗むだけのチョロい仕事じゃ」







〜回想〜





カチン、と言う鍵の開く音がした時、俺は思わずニヤリと笑った

扉を開けると中には大量の紙束
その中から一枚だけを取り出しまた鍵を掛け直す

それを内ポケットにしまい込んで、パーティー会場に戻る

「こんな盛大にパーティーやる金があるなら金の数百万くらい踏み倒させたって構わんじゃろ」

盛大に行われているパーティーを二階から見降ろす
誰かと誰かの婚約披露宴。まだ女の方が登場していないがどうせどっかのお偉いさん同士の政略結婚だ

「さて……」

仕事が終わったから、もうこんな所にいる必要は無い
さっさと帰って金でも貰うか

会場の扉は常に開いていて、自由に出入りする事が出来るようになっている

「お客様、これから披露宴が始まりますが」
「急に仕事が入ったので……挨拶だけで申し訳ないのですがこれで失礼させて頂きます」
「そうですか、お気をつけてお帰り下さい」

慣れない標準語と敬語
なるべく相手の記憶に残らないようにする為だ

俺が屋敷から出ると大きな扉が閉まった
辺りには人影は無い

俺は屋敷をぐるりと回り、あまり人目につかないであろう裏門から出る事にした


「こっちはテラスになってんのか………」

後ろにはテラスが二つ
真っ白いペイントに真っ赤な薔薇の植え込み

「そんじゃ、早いとこ帰……」

ふとテラスを見上げると

「とりゃあぁぁぁ!!!」

4代目タイガーマスクもビックリな一回転ドロップキックを喰らった

俺にドロップキックを喰らわせた奴は一回転の後着地に失敗してべちゃっと転んだ。しかも俺の上に

「あぁっ!ごめんなさい一般の人!でもこんなとこにいる方が悪いアルよ!出直してらっしゃい!!」
「そ……それが人に謝る態度か………」
「いたぞ!!」

薄暗い中庭に懐中電灯が照らされた
それはもちろん俺達に向けられている

もしかしたら借用書盗んだのが見つかったのか!?

「そんじゃ、俺は逃げるからな」

この様子だとどうせ裏門は封鎖されているだろう
俺が門に足をかけ飛び越えると、女も一緒に門を飛び越えた

「お前、何やって……」
「私も逃げるの!」

女は走り出すがハイヒールと白いドレスが動きにくいらしく足取りは遅い

警備員は裏門から回り込んで追いかけてくるが、この早さだと後に追いつかれるだろう

「ちんたらやってたら捕まるぜよ」
「うっさい!これでも全力疾走だっつーに!!」
「仕方なかねぇ……大人しくしときんしゃい」
「うぉわぁ!!」

女を担ぎ上げて肩に乗せ走り出す
重そうなドレスを着ている割に女自体が軽いのか、持ち上げた重さは思ったよりも軽かった







「ここまで来れば大丈夫じゃろ」
「そだね。助かったわー」

女は自分から飛び降りると、ドレスについた砂埃を適当に払った

「すまんかったな……結果的には巻き込む事になってもうて…」
「へ?巻き込む?」

女は間抜けな声を出し、首を傾げる

「さっきの追っ手は多分俺を追いかけてきた奴等じゃ、上手くやったつもりだったんじゃが……」
「違う違う、あれは私追いかけてきたやつだよ」
「は?」

今度は俺が間抜けな声を出す番だった

「質問1。アナタは今日のパーティーのお客さん?」
「………あぁ、まあそんなとこじゃ」
「質問2。今日って何のパーティーか知ってるよね?」
「……婚約披露」
「質問3。誰と誰の婚約披露宴?」
「………………跡部財閥の御曹司と、財閥の娘さん」

参加者に配られたパンフレットを開き、内容を確認した

「質問4。さて、これを踏まえて。関係者以外立ち入り禁止の二階にあるテラスから飛び降りた私は誰でしょう?」
「………まさか」
「どーも。初めまして、です」

ニッコリと笑ってお辞儀をした

「何でまた今日の主役が脱走なんか……」
「政略結婚、嫌いなんだよねー。アナタが何やらかしたか知らんけど、多分私連れて逃げた時点でアウトですね」
「………………」
「すまんかったなぁ、結果的には巻き込む事になってもうて」

俺の真似をして気まずそうに笑った

「えーと、アナタお名前は?」
「………仁王雅治じゃ」

ここまで来て名前を隠す必要は無いと思い、俺は本名を出した

「お詫びに暫く身を隠す場所を提供すっから勘弁してくれる?」
財閥の息のかかったとこならすぐに見つかるじゃろ」
「違うよ。行くとこは……私の知り合いっつーか、腐れ縁?みたいな人のとこだから。そこのボスは楽しい事好きだから仁王みたいなおもしろそうな人はかくまってくれると思う」
「おもしろいって……サーカスかどっかにでも売り飛ばすんか」
「まさか。探偵事務所だよ」
「探偵事務所?」





〜回想終了〜







「で、着いたのが……」
「幸村探偵事務所じゃ。最初は2、3ヶ月位世話になるつもりだったんじゃが……」
「わかった!居心地良くなってそのまま住んでるんすね?」
「いや、幸村に………」







『このままここの所員として働いてもらうよ。嫌だって言うなら全国に指名手配所回させて貰うから』







「………って言われてな…」
「……幸村所長って、何者……?」
「財閥の社長とか、ただの道楽息子とか、裏社会のドンだとか色々噂はあるけどな……」

仁王先輩はフッ、と明後日の方向を向いた

「あっ!仁王先輩!カゴ!!」
「かかったか!?」

カゴがカタカタと動いている

「犬、猫、猪………」
「この際鷹、いや、スズメでも構わん!」

カゴを開けると、見慣れた物があった

「………ブン太先輩……」
「んぉっ!どーしたい」
「どーしたもこーしたも………」
「お前はどこまで食い意地が張ってるんじゃ……」

確か餌にしたのって幸村所長が遊びに来た時に飼ってる猫に食べさせる猫用の缶詰だったような

ブン太先輩に呆れてたら真田副所長、柳先輩、柳生先輩が走ってきた

「丸井君!急に走り出したと思ったら………」
「全くお前はたるんど「それ所じゃないです!大変なんですよ!!」
「何が大変なんすか?あ、そーだ!浮気調査の方は終わったんすか?」
「浮気調査の方は終わらせてきた、だが……」

真田副所長が言葉を濁していると、仁王先輩が何かに気付いたようだった

「………はどうした?」
は誘拐された」
「誘拐!?」


今回も、美味しい御飯は暫くお預けのようだ

………頼むから普通に白米を食わせて欲しい