えーと、今の状況を整理するのです。
こういう時に大事なのは冷静な判断力です。落ち着いて素数を数えるんd
まず、浮気調査の依頼があって、取り敢えず尾行とか薬品調査とかして
そしたらあっさり浮気現場に遭遇して写真に収めてあっさり依頼終了。浮気相手のデータもすぐに入ってきた
滅多に無い程の早さで依頼が終了してしかも即金で10万。これはおいしい!
そんでもってわーいと真田を押しのけ私が10万の入った封筒を受け取った瞬間、私達がいた依頼人の家の居間のガラスが割れて
男が二人入ってきて私が人質になって
無理矢理車に押し込められて
そして今に至る訳です
因みにお腹の辺りでロープがぐるぐる巻かれて電柱くらいの大きさの柱に括りつけられてます
手は動くけど足もぐるぐる巻き。みのむしみのむしー
「ねーお兄さん」
「何だ……っていつの間に目隠し外したんだ!?」
「えーと、えーと、実に言いにくいのですが、勝手に緩みました」
「………………」
「もっとね、ぎゅーって縛ってぐぐって結んだ方が良いと思うの」
って何で誘拐犯に助言してんだ私は
「どうせ顔見られたなら同じじゃない?」
目から落ちて首に巻きついてた目隠しを解いて取ってくれた
「でもさ、やっぱ長い間顔見てた方が顔覚えるって」
「君なら一目見ただけで覚えるんじゃない?あの幸村の探偵事務所で働いてるんでしょ、君」
「んぉ?おユキの知り合い?」
「んー、まぁ昔の仕事仲間、ってとこかな」
誘拐犯と仕事仲間って一体何やってたんでしょうねあの海藻さんは
「名前なんて言うの?」
「清純」
「キヨスミ?」
「そう」
「本名?」
「さぁ、どうだろうね」
キヨスミ、と言ったオレンジ色の頭の人は降りていたブラインドから外を覗き、すぐにブラインドから離れもう一人の男の人の所に行った
「あっくん、どーしよっか?」
「如何しようもこうしようも、用件だの逃走手口だの考えねぇとどうにもなんねぇだろ」
「あっくんって言うの?あきこちゃんとか、あきらくんとか、あきおくんとか、アマンダとかそういう名前?」
「仁」
「じん?」
『あ』の字が掠りもしてないじゃないか!!
「逃走手口ねぇ……どうしよっか?」
「……お前、それ考えてこのビル立て篭もったんじゃねぇのか?」
「いーや全く」
「テメェ!このビルがどんだけ逃げにくいか分かってんのか!?」
このビル、出口が二箇所しかないから警察来ちゃったら普通に出るのはまず無理
窓から逃げようにもみっちり隣のビルと隣接してるから逃げにくいし
かと言って屋上から逃げるような用意でもしてないと空からの脱出は無理だし
仁がキヨスミの胸座を掴んで物凄い勢いで睨み付けてる
うぉー、なんかピリピリしてますわ!!
「よっしゃ!ちょっと気晴らしにゲームやろう!!」
「ゲーム?」
「うぃ!別の事やってたら良い意見出るかもしんないよ!」
「………そーだね!やろっか!」
「うぃうぃ!」
キヨスミはノリノリで私に乗ってきた
「じゃあ何やる?」
「えーっとね、あ。じゃああれやろう!『お笑い芸人山手線ゲーム』!」
「お笑い芸人?」
「さっき事務所でやってたんだー。多分1日限りのプチブーム!芸人で山手線ゲームやるんだけどね、ちゃんと制限を入れるの!」
「へぇ……じゃあお題は何にする?」
「うーんと………じゃあ『二文字の漢字のお笑い芸人!』じゃあ私が最初ね。行ってみよー!!」
唯一自由になっている両手でパンパン、と2回手を叩いた
「北陽!」
するとキヨスミもパンパン、と手を叩く
「友近!」
「麒麟!」
「千鳥!」
「鉄拳!」
「号泣!」
「磁石!」
「ほらほらあっくんも加わる!」
キヨスミが強制的にパンパン、と手を叩く
「さ、三瓶」
「三瓶……」
「結構マニアックな笑いを知ってるね、あっくん………」
「つーかあれって笑いって言うかなんつーか……」
「だよね……」
「お前ら初対面で意気投合してんじゃねぇ!ヒソヒソ話しながらこっちを見るな!!」
妙なショートコントをやってたら、外が急に騒がしくなった
「警察だ!お前らがそこにいるのは分かっている!!大人しく投降すれば危害は加えない!繰り返す!」
拡声器の声が聞こえ、私が気になって足と腹に巻きついてたロープをブチブチと千切って窓に駆け寄る
さっきのキヨと同じようにブラインドからちょっと外を覗くと、大量のパトカーと警察官がビルの前にワラワラしてた
「すげ!おまわりいっぱいいるよ!!」
「うん、俺は普通にロープ千切った君の方がすごいと思うけどね」
キヨはキャップにオレンジ色の髪を隠しながら被った
そしてもう一つテーブルに置いてあったキャップを仁に投げて渡す
「どーやって逃げんの?」
「もうすぐ来ると思うよ」
外が急に騒がしくなった
サングラスをかけて、キヨはブラインドを上げ窓を開ける
「行くよちゃん」
キヨに腕を引っ張られ、そのまま窓から飛び降りる
降りた先にはトラック。上手く着地すると警察官がどんどん遠ざかっていく
少し遅れて仁もトラックの上に着地した
「来いよ」
助手席側の窓が空いていて、仁がそこから中に入るとこっちを見た
同じようにバックミラーに掴まり中に入ると、そこには見知った顔がいた
「おユキ!!」
「お疲れ様」
「ほーんと疲れちゃた。幸村ぁ、報酬弾んでよ?」
「僕まで駆り出しといてよくそんな事言えるね」
てかおユキってトラックの運転できんのか?
自家用車だって自分で運転してるとこ見た事無いのに
トラックは裏通りに入り、探偵事務所まで戻った
事務所のドアを開けると、みんながいた
「あー!!先輩!ほら!仁王先輩!先輩帰ってきたっすよ!!」
マウントポジションを取って真田を殴りかかろうとしていた仁王は、赤也のわざとらしく出した大きな声を聞いてこっちを向いた
「!!」
「ただいまぁー」
抱きつこうとする仁王にボディーブローをかまし、みんなの所に歩いていく
「えーっと、先輩。後ろにいるのは……?」
「うーんとね、誘拐犯」
私があははと笑い飛ばしながら言うと、背後で仁王が復活した
何か背負ってるよ!ものすごいもん背負ってるよ!禍々しい武器持って禍々しいオーラ出してますよ!!
「仁王君!!落ち着いて!落ち着いて下さい!!」
「のぅ柳生」
普段からメンチきかせまくってそこら辺のヤンキーを怯えさせてる仁王が
「に危害を加える奴は、死あるのみじゃろ?」
すっごい爽やかな笑顔でそう言い放った
「さ、さん!見てないで止めてください!これ以上この事務所に犯罪者人口を増やすわけにはいきません!!」
「いーんでない?今まさに犯罪者を減らそうとしてるんだし」
こうしてお金も無事な訳ですしね!
「さて、僕は帰るよ」
「って待ってよおユキ。こんだけ巻き込んでおいて私にゃなんの説明も無しデスカ」
「うん」
「そっか」
「そしたら、また来るよ」
「じゃあね」
おユキは事務所のドアを開け、狭い階段を降りていった
トラックはいつの間にか無くなっていて、そこには高そうな車があった
事務所の中に戻ると、仁王が今度は柳生に沈められていた
やっぱやぎゅうはこわいとおもいました。
「先輩、珍しいっすね」
ソファーに座って封筒を開け、お金を数え始めると赤也が寄ってきた
「なーにがー?」
「ほら、いつもだったら『営業妨害だ!損害賠償だ!公務執行妨害だ!賠償請求だ!』とか騒ぐじゃないっすか」
「そっかぁ?」
「そうっすよ」
「そうかもねぇ」
きっちり十万あるのを確認すると、金庫の鍵を空けてお金をしまった
「大人しく引き下がっちゃうんすか」
「大人しく引き下がっちゃうねぇ」
立ち上がってデスクに向かうと、赤也も後ろから着いて来る
「私、あの人には滅法弱いんだよ。あれ、なんつーの?惚れた弱み?」
その金庫を机に入れ、そこに更に鍵をかける
赤也はそれ以上何も聞いてこなかった
なんかポカーンとした顔してたけど、もしかしてちゃんと理解してないのかもしんない。
こうして、私たちはなんとか無事に10万円を手に入れたのでした。