10万円
普通のリーマンにとっては給料の一部位にしかならないけど俺達にとっては大金。
よって、俺達はそれぞれ欲しい物を言い合ってそれを買うことにした
「あー!ずりぃ!!」
「これがずるいと言うならどうやって倒せって言うのさ!」
「ブン太先輩下手すぎっすよ」
「お前達!ゲームをやってる暇があったら仕事をせんか!!」
俺たちが買ったものは
まずテレビ
うちテレビ無かったんだよな。実は
リサイクルショップで買った中古品だけど映るから良い。あるだけ良い
次にスーファミ
ゲームが欲しい!と皆の主張が通り、何とかスーファミで譲歩
ソフトはマリオとボンバーマン
そんでもって印刷機
幸村所長が保険かけててくれたお陰で、何とか手に入れることが出来た
………まあ、買って2ヶ月とかいう短さだったし、何より壊れたのって事故だしな
今更になって教えられたけど、前の印刷機は俺がここに入るきっかけになったあの依頼での報酬で買ったらしい
「俺はこれから営業報告書と依頼報告書を幸村に渡してくる!!大人しく仕事をしない奴は晩飯抜きだからな!!」
バン、と乱暴にドアが閉められた
このドアの乱暴な閉め方は事務所伝統なんだろうか。その内ドアが壊れそうだ
「あーやだやだ。おっさんは頭が固いねぇ」
「でも、ちゃんと仕事しとかないと飯はうまくないぜよ」
「そだねー。なんとか調味料とか買い足しできたしうまいもん食いたいよね」
残りのお金は全て食料につぎ込んだ
殆ど空だった調味料、腹に溜まる炭水化物は一番安価の小麦粉、それと数種類の野菜、焦げ付いてた鍋も新しくした
あと裏に家庭菜園を作る!と意気込んだ先輩は野菜の種を買っていた
この時期に植えて何が出来るんだろう。二十日大根やラディッシュあたりが精一杯じゃないだろうか
ちなみに今は六月中旬、梅雨です。じめーっとして窓も開けず蒸し暑いです
「………そう言えば、何で窓開けないんすか?」
「あー、ここって窓開けると雨入ってくんだよね」
「窓際とかぐっちゃぐちゃになるよな」
おんぼろビルだから雨もまともに防げないのか!
下手したら雨漏りとかしてくんじゃないのか!!
「じゃあ夏まで外の空気は入って来れないって事っすか……嫌だなぁ」
「夏も無理だろうな」
「え?」
「網戸が壊れている。虫が入り放題だ」
よく見てみたらここの窓には網戸が無い
なんでも去年真田副所長が刀振り回して破って壊したらしい
銃刀法違反もいいとこだ
「………今更ですが、報酬で網戸買った方が良かったかもしれませんね……」
確かに
「あーもう!ぐだぐだ言ってたらよけい暑くなった!!」
先輩がスーファミのコントローラーを投げソファーに寝転がった
テレビ画面では無残にも先輩の操作してた白ボンが爆死していた
「これから余計暑くなると思うと気が滅入ってくるぜぃ」
ブン太先輩もスーファミの電源を切ってだるそうに寝転がった
「なーんか良い暑さ対策無いかなぁー……」
先輩がフラリと立ち上がりのろのろと仮眠室の方へ向かった
向こうは生活スペースになっていて、色んな物が色んなとこに散乱している
「まさかお前がこっちに向かっているとは思わなかったな」
「うん、最近こっちにもよく仕事の依頼が来てるからね。評判上がってるよ。どんな依頼もこなしてくれる探偵事務所。って」
「容易い仕事ばかりだったがな」
「じゃあもう少し難しい仕事でもこなせそうだね」
「あんな奴等だがやる時は真面目にやる奴等だからな……」
「そうだね。俺がいなくてもよくやってくれてるよ」
狭い事務所の階段を上がり、幸村と真田は事務所の戸を開けた
「あ、おユキ。いらっさーい」
「………前言撤回するなら今の内だよ、真田」
「………………すまなかった」
真田副所長が今にも切腹しそうな勢いで頭を下げた
それからぐわっ!と鬼の様な形相でこっちを見て怒鳴った
「お前達何をやっている!!!」
「クールビズ」
「クールにも程があるよそれは」
幸村所長のツッコミにも頷ける
クールビズと言ってのけた先輩は水着姿でソファーにぐったりと寝転がっていたからだ
「だってさー、扇風機もクーラーも無い上に窓も開けられないんだよ。こうするしかないじゃん」
「お前は我慢と言う言葉を知らんのか!!」
「避暑だよ避暑」
「秘書だと!?そんなふしだらな格好をした秘書がいるか!!!」
「えーっと、真田副所長……秘書じゃなくて避暑っす」
皆が意味が分からず固まっていたので、俺がつっこんだ
「………おユキ、せっかく来たしごはん食べてく?」
何となく気まずい雰囲気になったので先輩が水着姿のまま立ち上がってエプロンを手に取った
どうやら服を着る気は無いらしい
「食材随分買い込んだね」
「小麦粉あるからホットケーキでも作ろうか?おユキ甘い物平気?」
「うん。甘い物は好きだよ」
幸村所長が笑顔で頷く
先輩も心なしか嬉しそうだ
「じゃあ皆の分作るから食べようか。ちょっと待ってて」
先輩が台所へ向かった
「そう言えば幸村所長、この前の人達はどうしたんすか?」
「どうした、って?」
「ほら、先輩を誘拐したあの人達……警察に突き出したんすか?」
「一階に住んでるけど」
え!?
「暫くは身を隠しておいた方がいいと思ってね。ここの一階を貸してるんだ」
確かにここの事務所は二階で、一階には誰も住んでいなかった
だけど、だけど、だけど!!
「はーい。出来たアルよー」
先輩が台所から笑顔でボウルを持ってきた
………何でホットケーキがボウルに入ってるんだ?
「、さすがに水着にエプロンはきついぜよ。裸エプロンみたいじゃ」
「はっはっはー。サービスサービス」
でんっ、と重そうな音を立てて、先輩は机の上にボウルを置いた
ボウルの中には大量の液体。ねばーっとしてる
「………、これは何じゃ」
「ホットケーキだよ」
「………………さん、これは世間一般では『みずあめ』と呼ばれる物じゃないんですか?」
「小麦粉と砂糖間違えて入れちまったい☆」
テヘッ、とか言いながらごまかし笑い
「作り直して来るわー」
水飴をそのまま放置して、先輩は台所へと戻った
「………まあ、食うか。水飴だし」
「水飴だしな」
ブン太先輩が割り箸を手に取り、水飴の中に割り箸を埋めてぐるぐると巻きつけた
俺も取り敢えず腹が減ってるので水飴を食べる事にする
「そう言えば、仕事持って来たよ」
「最近多いのぅ。有り難い事じゃの」
あ、水飴意外とうまい
まあ砂糖だから当たり前だけど
「誰からの依頼じゃ?」
「榊探偵事務所」
がんがらららん
先輩が持っていた鍋を落とした
鍋から流れてくるどろどろした液体
………また水飴っぽいんですけど
「さ、さささ榊探偵事務所ぉ!?」
「そう。榊探偵事務所」
「何で探偵事務所が探偵事務所に依頼をしてくるんだよ」
「さぁ。ただ俺は来た仕事を流してるだけだから、詳しい事は直接聞きに行ってよ」
「………………作り直してくる」
鍋を拾い上げ、雑巾で床を拭いた後、先輩はまた台所へ向かった
「は行くのやめといた方が良さそうじゃの」
「向こうはが来ないと依頼しないって言ってるけど」
「それなら断る」
「断れるだけ裕福じゃないだろ?」
………まあ未だ貧乏な事には変わりない。悲しいことに
「はいはいはーい。できたですよー」
先輩が今度はフライパンを持ってやってきた
「ってまた水飴!?何で水飴!?その水飴にかける執着心は一体何!?」
「てかさ、小麦粉が全部砂糖だったんだよね」
使えねぇ!!!
「やっぱさ、小麦粉を手に入れるためにも依頼はこなすべきですよ!是非とも!!」
水飴をボウルに継ぎ足しながら、先輩が言った
………まだ食わす気なんだろうか。結構喉渇いてきたんだけど