水飴で一日を過ごした俺達は、翌日榊探偵事務所に来ていた
依頼内容を確認する為だ


「こんちゃーっす」
「あっ!跡部の愛人!!」
「ちゃうって岳人。うちのアホ所長が勝手に言ってるだけや」
「いきなりな挨拶だねぇ、うちに依頼しといて。この辺一帯植民地にすんぞこの野郎

先輩が思いっきり二人にガンを飛ばすと、二人は首を傾げた


「は?依頼?」
「は?じゃないよ。仕方なくこんな香水とバラの匂いで立ち込めた金持ち臭い事務所に嫌々ながら来てやったのに
依頼してやったってのにその言い草かよ

ピンクの髪の人が突っ込みを入れた
どうやらこの二人は今まで依頼のことについて知らなかったみたいだ

「依頼したのは俺だ」

奥の部屋からエレガンスに出てきたのは、ここの所長代理、跡部さん
今日もなんか色々エレガンス。全体的にエレガンス。


俺たちはその奥の部屋に通され、詳しい話をすることにした






「依頼内容はどんなん?」
「これだ」

差し出されたのは新聞記事。うちは新聞取ってないから見るの久しぶりだなぁ

「倉庫から商品が盗まれた事件ですね」
「商品?」
「オークション会場の金庫にあった商品の事だ」
「この日に盗まれたのは80万のダイヤ、フランス産のトリュフ、85年のボルドーワインだ」
「へぇ……でももっと高い物もあったんじゃないっすか?美術品とか」

オークションに集まるのは金持ちばっかりみたいだし、絵画とか壷とか掛け軸とかそういう美術品もあった筈だ

「こりゃあプロの手口だね」
「え?」
「確かに美術品は億単位の値打ちが付くけど、売るのが難しいんだよね。なんたって一点ものだし」
「その点、そこそこの値段の宝石や食べ物は希少価値が高くても大量に出回ってるからルートの特定が難しいんじゃよ」
「特にダイヤなんて大変だと思うよ。もっとでかいの盗んでくれれば良かったんだけどね」

リストを見ながら先輩がぼやいた

「じゃあ、まずどっから取り掛かろうか」
「依頼、受けるんすか?」
「まぁねー、報酬が良いからねぇ……」
「跡部さん、とりあえず警備していたという倉庫に案内して頂けますか?」







「でっけー……」
「うわっ!年代物の唐津焼!こっちはサファイアのネックレス!あっちにはダイヤモンドがいっぱい……これ売っ払ったら幾らくらいになんのかしら………」
「さっさと始めましょう。さんが商品に手をつけかねません」

柳生先輩が今にも骨董品に飛び掛りそうな先輩を片手で制して言った

「そうっすね……そう言えば、警備ってどういう事をやってたんすか?ここ専属の警備員もいるんすよね?」

俺は跡部さんに尋ねた

「ここの警備員には暇をやっていた。俺の警備の邪魔になるからな」
「へぇー……さすがプロっすね」
「まぁな」

自慢げにふふん、と笑う跡部さん
なんかむかつくー

「盗みに来るのは夜じゃろ?夜には特別警備とかやっとたんか?」
「何も」
「………は?」

思わず俺達全員が面食らった顔をしてしまっていた
真っ先に行動したのは先輩で、跡部さんの胸座つかみあげて前後にがくがく揺さぶった

「お前は馬鹿か!もしくは馬鹿か!あるいは馬鹿か!夜に警備やんねぇでいつ警備やるってんだよ!!」
「馬鹿野郎!徹夜なんかして俺の肌が荒れたらどうすんだよ!!
「うるせぇぇぇ!!肌荒れが気になるならチョ●ラBBでも飲んどけ!!
んなふざけた名前の薬なんざ飲めるか!
ふざけてんのはテメェの頭だぁぁぁ!!!





「あ、跡部さん、とにかく落ち着いて!今日から夜中にも警備やりましょう!ね!俺も一緒に警備やりますから」
「………めんどくせぇ」

俺が百歩譲って言ってやってんのに何だこの言い草は

「赤也ー」
「何すか!先輩達も説得してくださいよ!!」
「あたしら近くのびっくりドンキーで飯食ってくるから後よろしくー」

逃げた!!




結局強盗は見つからないものの、一ヶ月間きちんと品物を守れたと言う事で報酬が貰えた
お陰で寝不足だ



「へい、赤也。おいしいホットケーキですよ」
「………寝不足にメープルシロップたっぷりのケーキは辛いんすけど」
「疲れた時には甘い物って言うでしょ」

何となく言いくるめられてしまったので、俺は渋々食べる事にした
でも案外うまい。先輩のくせに料理はできるんだなぁ

その先輩は台所で洗い物をしている

ー」

仁王先輩が洗い物をしている先輩に背後から駆け寄る

そして先輩のケブラドーラ・コン・ヒーロが見事に決まった
仁王先輩の背骨は大丈夫だろうか

「何か用?」
「こ、これ……プレゼントじゃ」
「え?」

仁王先輩が弱々しく起き上がりポケットから出したのは、ダイヤの指輪

「結婚指輪じゃ」
「マジで!?すげぇ!でっかいダイヤー!」
「そんな高くもないんじゃよ。せいぜい80万てとこかの」

ちらりと横目で先輩を見ると、手には少し大きめのダイヤがあった
80万ならそんなもんだろうか

「……ん?」

80万

どっかで聞いた単位


80万、80万……



「この日に盗まれたのは80万のダイヤ、フランス産のトリュフ、1985年のボルドーワインだ」





まさか


まさかー!!!






俺は恐くて仁王先輩に真相を聞く事が出来ませんでした

それよりも恐かったのが



翌日に80万円の現金を嬉しそうに手にしていた先輩でした